Chapter2 求められる「遊び」とは|OPINION1 重要なのは、遊びの体験の積み重ね 創造力を生む「遊び」の極意 松田恵示氏 東京学芸大学 副学長/「遊び学」研究者
「遊びこそが、新しいものを生み出す原動力になる」という遊び学研究者の松田恵示氏。
なぜ遊びが大切なのか、そして面白く遊ぶコツについて、話を聞いた。
遊びは“創造”の源
「イソップ童話『アリとキリギリス』で描かれているように、仕事とは『今、したいことをある程度あきらめて、未来のために使う時間』だと考えられます。一方『遊び』とは、『先を考えずに今だけに集中する時間』。でも、遊ぶことで“今”を充実させることができますし、生きていることを実感するためにも欠かせないものです」
そう話すのは、東京学芸大学副学長で「遊び学」研究者の松田恵示氏。さらに遊びは、今を充実させるだけでなく、創造性の源でもあるという。
「仕事と遊びが交互に現れることで、人生も日々の生活もリズムが生まれ活気がでます。いい仕事をするには、このリズムが大切です。加えて、遊びは『今だけに集中する』ので、計画に縛られません。だからこそ自由な発想ができますし、新しいものを生み出す原動力にもなります」(松田氏、以下同)
「人間とはそもそも遊ぶ存在だ」と述べた遊び学研究の第一人者、J. ホイジンガは、遊びを突き詰めると「面白い」だけが残るという。
「『面白い』というのは、枠組みに縛られず、自由で、想像力に溢れた状態です。だからこそ、すべての文化は人間が遊ぶことによってつくられた、とJ. ホイジンガは言います。『火を通す』という食文化を例えとして挙げると、原始時代に生肉を食べていた人が、たまたまその肉を焚火にかざしたらパチパチと音がして面白い。そのあと食べてみたらこれがまたおいしい。それで、料理をするときには火を使うことが習慣となった、とこんな感じです。つまり、必要にかられて文化が成立していったのではなく、面白いからやってみたことが結果として蓄積されたということです」
社会や文化を創造する源は、遊びの本質である「面白い」にあると松田氏は話す。
遊びとは「隙間」「動き」「安心感」
そもそも「遊び」とは何か、その定義について考えてみたい。前出のJ.ホイジンガや『遊びと人間』を上梓したR. カイヨワによる遊びの定義の一つに、「日常ではない」ということが挙げられるという。
「たとえば日常の仕事において、『営業で負けた』となると落ち込みますが、遊びのトランプで勝っても負けても実はどうでもいい。それでも一生懸命になるのが、遊びの面白いところです」
さらに『遊びの現象学』を上梓した美学者の西村清和氏は、遊びの定義として①隙間があること、②反復する動きがあること、③安心感があること――を挙げている。