Chapter1 様々な分野から見る学び ③技と環境 匠の動きを完全コピー 学び続けるマインドセットは “気づく力”から生まれる 原田宗亮氏 原田左官工業所 代表取締役社長
原田左官工業所では、30代以下の職人が全体の6割を占める。
同社が取り入れる「モデリング」による育成施策は、
親方に師事し、現場で仕事を覚える従来の手法とはまったく異なる。
若手職人の学ぶ姿勢はどのように変わったのか。
「見て盗む」からの脱却
鏝(こて)を自在に操り、建物の壁や床を美しく仕上げる左官業。日本の家屋には、古くから欠かせない存在といえる。東京の下町にある原田左官工業所は、商業施設や店舗の内装を得意とする。発注者は塗り壁ならではの高級感や、店のアクセントとなるようなアート的要素を期待するケースが多い。しなやかな感性が重要となるため、若手や女性の採用にも力を入れているという。40人いる職人のうち6割が30代以下、女性職人も10名在籍している。
厳しい修業が必要なのは、左官も同じだ。一般的には徒弟制を基本とし、一人前になるには10年かかるといわれてきた。だがそれでは職人が思うように育たないと、代表取締役社長の原田宗亮氏は危機感を覚えた。家業を継いだ2007年のことだ。
「以前から薄々ではありますが、新入社員の“質”が変わってきていると感じていました。意欲は高いものの、それをどう発揮すればいいのかわからない人が目立つようになってきたのです」(原田氏、以下同)
まじめで従順、先輩の話もよく聞く。だが、現場補助をしながら仕事を覚えるとなると、知識や技能が断片的になる。また、先輩の指導も人によって言うことが違ったりする。学校や塾で手厚い教育を受けてきた若者世代は、戸惑いや混乱を隠せない。未熟なうちは鏝を持つこともなかなか許されず、モチベーションも低下しがちだ。結果、修業の途中で離脱していく若手が増えた。
「昔は作業日程や人員に余裕があったうえ、材料の仕込みなど、見習いならではの仕事も多く、先輩の仕事を見ながら“盗む”やり方でよかったんだと思います。しかし今は下準備を簡略化できる材料も増えましたし、納期の短縮化が進んでいます。見習いも、“学ぶ=教わる”という感覚が強く、これは教える側も学ぶ相手にある程度合わせなくては、と思いました」
そこで同社では独自の育成システムを確立し、2010年より運用を続ける。若手の定着率は格段に改善し、過去には4割に達した入社4年以内離職率も、5%以下と数人程度に減った。人手不足に悩む左官業界においては驚きの数値だ。
学びのポイント① 「いつ」「何」を学ぶかを明確化
昔ながらの左官修業と違い、原田左官工業所では、いつ、何を学ぶかを明確化した4年間の育成カリキュラムを組んでいる(次ページ図)。