Chapter1 様々な分野から見る学び ②脳科学 キーワードは本能・知識・経験 一人ひとりの脳が喜ぶ学び方で学ぶ方法 萩原一平氏 NTTデータ経営研究所 研究理事 情報未来イノベーションセンター長
比較認知発達科学の次に、より「脳」に注目してみると、
学びはどのようにとらえられるのだろうか。
脳科学の知見を経営に活用するニューロコンサルティングを専門とする
NTT データ経営研究所の萩原一平氏に話を聞いた。
脳は「人間の司令塔」
「学びというのは、人間がもっている2つの特性と大きく関係しているのではないかと考えています。その特性とは、親近性と新奇性です」
NTT データ経営研究所の萩原一平氏は、脳科学の観点から学びをこう分析する。親近性とは親しいものを好む特性であり、新奇性とは新しいものに興味をもつ特性である。
「親近性は人間の生存に大きく関係します。たとえば、見たこともないキノコをいきなり食べないですよね。『これは誰かが食べて大丈夫だった』という過去の経験や知識を活用しているから、毒性のあるものを食べずに済みます。
一方で、近くにある知っている食べ物だけでは、いずれなくなってしまいますから、親近性だけでも生き延びることはできなかったでしょう。初めて目にするもの、たとえばナマコやマツタケを食べようとした人がいるから、人間は生き延びてきたのです。これは新奇性に関係しています。つまり、親近性のように過去の知識や経験を活用していくことも、新奇性のように知的好奇心をもって新しいことにチャレンジしようとするのも、それ自身が学びの一環なのです」(萩原氏、以下同)
実は、このような人間の思考や行動はすべて脳の働きによるものである。しかも、人間の思考や行動の95%は無意識に行われているという。
だからこそ「人間の司令塔」である脳の仕組みを理解することは、日々の生活や行動を変えるのに役立つと萩原氏は指摘する。
「省エネ」の脳には習慣化が効く
そもそも、人間の脳は、どのようなしくみになっているのだろうか。
「人間の脳の重さは成人男性で1.35~1.4㎏、女性で1.2~1.25㎏といわれており、体重の2% 程度にすぎません。しかし、ノートパソコンと同じくらいの重さしかない脳が、人間のすべてを司っているのです。さらに、人間の脳は、非常に省エネにできているのも特徴です。脳の消費エネルギーはわずか20ワットで、パソコンでいえば電源を入れた後のアイドル状態のときのエネルギーと同じくらいです。ちなみに、脳が何か思考しているときに消費するエネルギーは、そこからわずか1ワット増えるだけです。
それだけ省エネの脳ですが、血液の20% が脳に運ばれており、その点では脳はエネルギー多消費器官といえるでしょう。脳を活性化するためにもっと脳に血液を送ればいいじゃないかと思われるかもしれません。しかし、そうすると筋肉などにエネルギーが行かないので、脳に送る血液量を変えることはできません。こういう前提があるから、限られたエネルギーを脳がどのように使うかが重要になってくるのです」