CASE 2 バンダイ まずは身内を楽しませる! 独自な研修と社内イベントで エンタテインメント魂に火をつける
「夢・クリエイション」の企業スローガンで知られる、玩具メーカー大手のバンダイ。
子どもから大人まで、世界中の人々に夢を届ける原動力は、「誰かをワクワクさせたい」という思いを、身近なレベルから表現できる企業風土にあった。
●採用 人を楽しませる才能を発掘する
バンダイといえば、「機動戦士ガンダム」のプラモデルや「仮面ライダー」の変身ベルト、携帯型育成ゲーム「たまごっち」など、子ども心をくすぐる玩具で知られる存在だ。他にもカードゲームや精巧なフィギュア、さらにキャラクターをモチーフにしたアパレルやコスメなどを発売し、大人をも虜にする。販路は海外にも広がり、今では年間7000以上の商品を世に送り出している。企画開発力の源泉は他でもない社員たちの“感性”だ。柔軟な発想力と人々の共感を呼ぶ価値創造力は、どのようにして育まれているのだろうか。
社内のOff-JTを主に担当する、人事部トイホビーSBUチームの木曽太地氏は、採用段階からセンスを見抜くことに力を入れるという。だがそれは、デザインやアートの才能といったものではない。
「当社には、創業者より受け継いでいる『同魂異才』という人材ポリシー(図)があります。同じ魂を秘めた異なる才能が集まる、という意味です。ですから特定のスキルを問うことはないですし、キャラクター好きでなくてもいい。“人をワクワクさせること”に喜びを感じられるかを重視します」(木曽氏)
「どうしたら人を楽しませられるか」を常に考え、アンテナをはりめぐらせ、そのために周りを巻き込める力―それこそまさに同社が求める“感性”といえよう。
●研修1 失敗する勇気を持たせる
「人をワクワクさせる感性」を持ってはいても、それを実際に発揮し、行動に移すのは勇気が要る。しかし、同社では新人研修で「まずはチャレンジせよ」というメッセージを伝え、“異才たち”の背中を押す。
育成部門を率いる人事部トイホビーSBUチームアシスタントマネージャーの鈴木裕光氏は、取締役の講話では、よく失敗談が語られると話す。
「経営陣の誰もが、失敗に終わったチャレンジが後の成功につながった、という経験をしているんですね。特に社長の川口(勝氏)は、自分が率いた事業が失敗して会社に大きな損失を与えた過去を取り上げ、敗者復活の文化があることを新人たちに直接伝えています」(鈴木氏)
チャレンジ精神は、バンダイナムコグループ合同で行う「バンダイナムコアドベンチャープログラム」でさっそく鍛えられることになる。2泊3日の合宿形式で、自然林に設置されたアスレチックにチームで挑む、というものだ。課題は「幅の細い平均台の上に全員が乗り、足を地面につけることなく誕生日順に並び変わる」「チームメイトが命綱を持ち、空中ブランコに挑戦する」など、どれも仲間との協力や互いの信頼が不可欠で、一度で成功することは難しいものばかり。チーム間で競わせる仕掛けを盛り込むことで、失敗から気づき、考察し、別のやり方で再挑戦するという流れが自然と生まれる。
一般に仕事や組織におけるさまざまなプレッシャーは、ともすると初心を忘れさせ、本来持っていた感性を鈍らせるものだ。だからこそ、「困難から逃げない」というマインドセットを新人の段階で培っておく必要がある。