Opinion 3 学ぶ上司に部下はついてくる―― 人間力のあるリーダーとなるために
スキルなどの左脳的能力に偏るな、今、管理職に本当に求められているのは部下の心をつかむ“右脳的能力”だ――こう話すのは、ビジネスアドバイザーでビジネス書著者の古川裕倫氏。その力は、日常のあらゆる機会を無駄にせず、学ぶことによって身につくという。23年にわたる商社マン生活を通し、つかんだ「先人・先輩の教えを後世に順送りする知恵」とは。
「本番力」を教えてくれた英語のできない上司
学ばない上司を部下は信じない。出身大学や聞きかじりの情報などで簡単にだまされたりしないのである。「自分はわかっている」と学ばない上司は尊敬されない。謙虚に学び続け、自らの能力を高める人間にこそ、部下はついていくものだ。愚直に学ぶ姿勢がその人にあれば、人はついくる。自分のリーダーシップに自信がない人は、まず学ぶといい。学ぶ人には皆、敬意を払うからだ。だが上司が学んでいるか、そうでないか――部下は意外に上司をよく見ているものだ。だから、上司はどんなに忙しくても自分磨きを怠らないほうがいい。人はいくつになっても学ぶことができる。では具体的に何を学び、どんな能力を身につけるべきなのか。語学や資格の勉強はもちろん必要だが、それだけではリーダーとしては不十分である。リーダーシップに必要な能力には左脳的能力――すなわち知識やスキルといった能力以外に、右脳的能力――人間力がある。もちろん、人事評価の対象となるのは圧倒的に前者だ。だが私は、本当に重要なのは後者ではないかと考える。よい例が坂本龍馬だ。彼には3つの右脳的能力があった。ひとつは「志の高さ」。彼の原動力とは決して私利私欲ではなかったはず。「日本のため」という高い理想があったからこそ、大政奉還という偉業を成し遂げることができた。さらに、鉄道も飛行機もない時代に江戸、京、長崎と忙しなく飛び回っていたわけだから、「行動力」も相当なものだったに違いない。もうひとつは「人を惹きつける力」である。当時、30歳過ぎとまだ若く、一介の下級武士であったにもかかわらず、越前福井藩藩主・松平春嶽、勝海舟といった大物を次々と味方につけていった。よほどの魅力の持ち主だったに違いない。私自身、図抜けた右脳的能力を持つ上司に出会ったことが何度かある。総合商社時代、米国勤務をしていた30歳前後のことだ。ある時、その上司は商談のため、東京の本社から私の赴任先に出張してきた。取引先に訪問する時、「通訳しろ」と言われて冗談だと思ったものだ。ところが、通訳としてその場に立ち会ってみて驚いた。なんと上司が話した英語は最初の挨拶だけ。あとはとうとう最後まで日本語で通したのである。にもかかわらず、商談終了後、交渉相手は上司を大絶賛した。なぜか。上司が相手の目をしっかりと見て、身振り手振りで気持ちを伝えていたからだ。その人柄、真心がちゃんと相手の心に届いていたのである。これには正直、唸ってしまった。「ビジネスの場で真に問われるのは仕事力や人間力なのだ」ということを、彼は身をもって教えてくれたのである。