Chapter1 1on 1の基礎と成果|OPINION CASE 世古詞一氏とVOYAGE GROUP 理論と実践 1 on 1 基本のキと違いを乗り越えるコツ 世古詞一氏 株式会社VOYAGE GROUPフェロー 株式会社サーバントコーチ代表取締役 組織人事コンサルタント
1on 1ミーティングは、うまく機能すれば、多様性が高まる職場における救世主となる。
そこで、1on 1の基礎と、背景が異なる人同士の違いの乗り越え方について、『シリコンバレー式 最強の育て方 ― 人材マネジメントの新しい常識 1on 1ミーティング』の著者、世古詞一氏に聞いた。
1on1とはどんな場か
昨今注目を集める「1on1ミーティング」(以下1on1)。どういった場で、なぜ行うといいのか。世古詞一氏は次のように整理する。
「近年、職場では、上司と部下の間で個人的な話をしにくくなっています。働き方改革によって残業が減り、“飲みニケーション”や喫煙所での会話も少なくなりました。ハラスメントに注意をしすぎて仕事以外の話もしにくく、また常に成果が求められているため、短期的な仕事の話が中心になっています。
しかし、こうしたコミュニケーションばかりとっていては、人を成果を出すためのリソースとしてしか見ていないようなものです。やがて部下やチームのモチベーションの低下や離職につながっていきます」(世古氏、以下同)
そうした中、「1on1は、人間としてのコミュニケーションをとれる場を組織として継続的に設けるもの」だという。
「具体的には、部下が何を考え、何を感じ、将来どういうことをしていきたいのかを上司と共有する時間であり、部下が言いたいことを言う場です。上司がそれを聴くことで、部下のやる気を高めることが1on1の最大の成果です。上司が言いたいことを言っていた従来の評価面談とは、大きく異なります」
1on1の6つの成果
実際に1on1を始める際、上司は何から始めればいいのか。
「部下の成長を支援する準備段階として、まず信頼関係を築く必要があります。そして、信頼関係を築くためには、『雑談』が不可欠です。雑談を通して、上司と部下がお互いに普段何をしているのか、どういうことに関心があるのか、プライベートなことも含めて理解を深め、安心感を高めていきます」
雑談に慣れ、信頼関係が築けてきたら、以下の「6つの成果」を目指した対話を行う。
「ただし、最初からこれら全ての成果を得ようとしないことです。1on1が終わったときに、1番があるだけでも重要です。趣味でも仕事でもいいのですが、『ああ、そういうことをやっていたんだ』と知る、あるいは知ってもらう。もしくは上司と部下が『久々に話しましたね』と感じるだけでも成果といえます」
ホウレンソウからザッソウへ
また次ページ図は、上司が1on1で果たすべき役割について、世古氏が整理したマトリクスだ。「面談」「コーチング」「雑談」「相談」の4領域に対して、4種の在り方が求められる。
「従来は、部下に対して父性的なペルソナを持って指導や指示ができる人がマネジャーになりやすかったと思います。しかし、現代のマネジャーには父性だけでなく、母親・友人そしてコーチ的役割と、多面的な接し方や支援の仕方が求められます。また、考え方や対話の在り方も、ホウレンソウ(報告・連絡・相談)からザッソウ(雑談・相談)へ、シフトする必要があるのです」
そして最も大事なことは、組織のインフラとして1on1を継続することだという。
「1on1を続けていると、数回に1回ほど『このタイミングでこれが話せて本当に良かった』ということが起こります。少なくとも月に1回くらいは上司部下で話をし、最低でも半年は継続してみてください。最初は雑談ばかりでも、継続すると習熟してきます。そのうち、部下から話したいことを話すようになっていくでしょう。積み重ねが大事です」
上司が工夫できること
1on1で良い対話をするために上司が工夫できることとは。
「場づくり、雰囲気づくりです。部下のエネルギーを高めるには、やはり部下に話をさせてあげることですが、それには話しやすい雰囲気があるかどうかが大きく関わります。上司に呼ばれてワクワクするような状態が理想的で、ひとつには場所選びを工夫すること。カフェや、散歩をしながらでも1on1はできます。部下が喜びそうなお菓子を用意したりしても、場が和みます」
加えて、前回の1on1以降、部下の発言や行動など、良かったこと、成長が見られる点を最低でも1つ見つけて伝えるとよい。
「部下が、1on1では何かしら褒められると思うようになればしめたものです。もちろん、ときには耳が痛いことも言う必要があるでしょうが、始めてしばらくは信頼関係をつくることに注力します」
まず“口癖”から変えてみる
1on1を通して「違いを活かす」まで至るには、上司側がパラダイムを変える必要があるという。
「それは、お互いの違いを好奇心を持って見る、ということです。『違いすぎて面倒臭い』と思うのではなく、『そんなふうに考えるんだ、面白い』と捉える姿勢を保つことが重要です」
しかし、人は急に自分のものの捉え方や姿勢を変えられるわけではない。ときには理解が難しかったり、相手の言動にイライラすることもある。少しでも違いが受け入れやすくなる手はあるだろうか。
「ものの捉え方や姿勢を変えるには、まず“口癖”から変えてみることをお薦めしています。例えば、意に沿わない返答をされて頭に来たとき、『なんでそんなことを言うの?』などと返すのではなく、まず『それ面白いね』と言ってみます。『どういうこと? もう少し聞かせて』『斬新だね、考えてもみなかった』と言ってもいいでしょう。言葉から変えることで、受け止め方も徐々に変わっていきます」