心と心をつなぎ直す、話す力・聞く力とは
個々人のコミュニケーションのとり方が、組織に影響を与えることはいうまでもない。
では、組織の構成員1人ひとりが、どういった話し方・聞き方や接し方をすれば組織が活性化されるのだろうか。
1983年に「話し方研究所」を設立し、企業や組織のコミュニケーション良好化に寄与してきた福田健氏が、その考えと、良い話し方・聞き方を語る。
対話力を重視する一方、心のつながりが希薄に
企業の人事・採用担当者に対して“若い人に求めること”を尋ねたアンケートの結果を見ると、(厚生労働省「若年者の就職能力に関する実態調査等)、近年は「コミュニケーション能力」が軒並み1位になっている。かつて日本社会では、コミュニケーション力や対話力、あるいはそのベースとなる話し方・聞き方はそれほど重視されておらず、いうなればアクセサリーのような扱われ方をしてきた。ところが昨今は、社会で仕事をしていくために不可欠なもの、さらには“生きる力”の土台のように捉えられている。こうした変化の社会的要因としては、グローバル化や人々の価値観の多様化、情報化社会の進展などが考えられる。また、終身雇用制度が崩壊し、リストラや企業合併が頻発する中、働き手は以前のように安閑としていられなくなっているが、そうした状況下でも力を発揮していかなければならない。そのためには、他者との協力関係が極めて重要になる。いうまでもなく企業というのは、多くの人の力を結集することで、1人ではなし得ない成果を上げるための組織である。複数の人間が1つの方向に向かって邁進するためには、コミュニケーションを通じて互いの理解を深め、協力し合うことが不可欠である。そして互いに情報を共有し、知恵を出し合うことでさらに相互の理解が促され、チーム力が発揮できる。これこそが組織の活性化だ。
ところが近年、人と人とのつながりが急速に薄れてきている。成果主義の導入、慢性的な人手不足など、各自が多忙を極め、相手に関心を向ける余裕が持てなくなっている状況が拡がっているからである。心のつながりに支障を来たすと、企業の発展、そこで働く人々の意欲と能力の向上にも大きな影響を与える。職場で心のつながりを取り戻すために、何より大切なのは、挨拶や声かけによって会話を活発にする各人の努力である。近頃は会話の少ない職場が増え、エレベーターホールに社員たちのにぎやかな声がこだまするといった光景も少なくなった。またオフィスでは、部下が報告のためにやってきても、上司はパソコンの画面を見つめたまま「それで?」「ふーん」などと返事をしている。私たちはコミュニケーションのテクニックだけでなく、こういった人間関係のベースになる部分についても、本気で考え実践に取り組むべきではないだろうか。
すべての人に共通するコミュニケーションの原則
とりわけ重要なのは、「人は皆違う」ということを前提に、互いに向き合って話し合い、問題を解決していくという姿勢だ。話が通じなかったり、意見が対立したりするのは当然。“通じないなら、話してもしようがない”のではなく、通じないからこそコミュニケーションが必要であり、話し合いが大事なのだ。それに加えて大切なのが“コミュニケーションの対面性”。技術が発達し、自動化が進んだ現在、人に直接会って話さなくても済むことが多くなった。しかし、会って話さなければ通じないことはとても多く、また、顔を見ながら話をすれば、誤解があっという間に解けたり、相手から思わぬ情報やアイデアをもらえることもある。コミュニケーションとは「生身の人間に直接向き合うこと」なのである。ところが若い年代を中心に、何でもメールで済ます人が増えている。「直接電話してみたら?」「このところ顔を出してないのだから、ちょっと行ってきたらいい」といったアドバイス自体がすでにピンとこなくなっている。クレーム対応までメールで済ませてしまうことさえ見かける。