リーダーシップは“良い失敗から学ぶ”ことで 誰しも磨くことができる 志賀俊之氏 産業革新機構 代表取締役会長
オープンイノベーションで次世代の国富を担う産業を育成・創出することを目的に設立された産業革新機構。
会長を務める志賀俊之氏は、日産自動車の最高執行責任者(COO)として変革の先頭に立ってきた経験を持つ。
志賀氏に、日本の産業界における変革の必要性と、今求められるリーダーシップについて聞いた。
日本企業が抱える「不都合な真実」
─産業革新機構は官民ファンドとして日本産業の構造的な課題解決を目指していますが、今の日本の産業界をどう捉えていますか。
志賀俊之氏(以下、敬称略)
最近特に問題に感じているのが、日本の産業競争力の低下です。
例えば、IMDの世界競争力ランキングで日本はバブル期には1位でしたが、2018年は25位まで後退。2017年の日本の労働生産性はOECD 加盟35カ国中20位で、先進7カ国では最下位が続いています。イノベーション力を比較したグローバル・イノベーション・インデックス2017では14位です。企業の新陳代謝も良くありません。2018年7月時点の時価総額ランキングを見ると、アメリカはApple、Amazon、Alphabet(Google の持ち株会社)が上位を占めている。GEやコカ・コーラが上位を占めていた20年前とは様変わりしています。一方、日本では上位ランク企業がほとんど変わっていない。これらが示しているのは、今の日本企業が抱える「不都合な真実」に他なりません。
不都合な真実の背景に何があるのか。私は、企業のトップに課題があると考えています。例えば、日本の経営者はほとんどが生え抜き社長です。彼らはリスクを取ってチャレンジしづらいし、横並び志向も強いので、イノベーションが起こりにくくなるのです。
近年、欧米に倣(なら)ってトップダウンがもてはやされていますが、トップダウンはトップにマネジメントやリーダーシップの力量や経験があって初めて成り立つものです。それがないのにトップダウンをしても、現場は混乱するばかりです。
GDP世界第3位であり、教育水準も高い日本の産業競争力が、なぜここまで落ちてしまったのか。我々はこの不都合な真実について、もっと真剣に考えなければいけないと思います。
─今の日本の産業界には何が足りないのでしょうか。
志賀
結局は人材に行きつくのですが、それ以前に、今の日本には3つの要素が欠けています。
1つめは「ダイバーシティ」。海外では、世界中から集まった多様な人材が侃々諤々(かんかんがくがく)の議論を交わし、切磋琢磨してイノベーションを生んでいます。ところが日本では同じような学歴の同質な社員たちが阿吽(あうん)の呼吸で仕事をする。化学反応など起こりっこありません。
2つめは「アントレプレナーシップ」。言い換えれば、自ら事業を興してお金を稼ぐ力です。しかし、日本人の多くは偏差値の高い学校を卒業して有名企業に入り、入社後は上司に気に入られ出世することを目指しています。産業の新陳代謝を引き起こすようなベンチャー企業が生まれないのも道理でしょう。
3つめは、「リーダーシップ」。日本では、謙虚さや協調性ばかり教育するので、リーダーシップの何たるかを知らないまま大人になる人が多いのです。