巻頭インタビュー 私の人材教育論 顧客と一人の人間として 真剣に向かい合う社員は 組織の温かな絆が生む
東京海上日動システムズは、東京海上日動火災保険をはじめとする東京海上グループのIT戦略を担うシステム会社だ。社員間のつながりを醸成する「コミュニティ活動」や競争しない人事評価制度など、「毎日行くのが楽しい会社」をめざす取り組みはどれもユニークで、IT業界における能力開発、組織づくりのモデルケースとして高く評価されている。全社員を優秀なSEとして育成し、世界一の保険システム会社をめざしたい、と語る横塚裕志社長に、人づくりにかける想いを聞いた。
温かい気持ちと本質を見極める力
――「働きがいのある会社2009」(GPTW主催)では9位、また第22回能力開発優秀企業賞(日本能率協会主催)の本賞に輝くなど、貴社の社員の働きがいの創出と能力開発への取り組みは高く評価されています。そんな貴社の人材に対する基本的なお考えをお聞かせください。
横塚
当社は、保険会社の業務をITでサポートするシステム会社です。顧客である保険会社とその代理店に喜んでいただくのが我々の仕事の目的。そのために当社社員として必要な要素は2つあると思っています。1つは、温かい気持ちでお客様のことを考えられることです。システムというものはお客様に使っていただくためにあるわけですから、お客様のことをどれだけ考えられるか、ということがいい仕事につながります。だから、一人の人間として温かい気持ちで「お客様のサポートをしたい」と、心の底から思えること、それがSEとしての仕事の原点です。
――「温かい気持ちでお客様のことを考える」――そうした気持ちはどこから生まれてくるものでしょうか。
横塚
お客様のことを温かい気持ちで考えるためには、まず、こちら側の気持ちを温かくしておかなくてはなりません。これは経験として知っていることですが、社内に組織の溝があって、トゲトゲした冷たい関係でいる時に、お客様に対してだけ温かく接する、ということはできないものです。自分のチームやコミュニティが温かい絆で結ばれている状況があってはじめて、お客様のことも温かい気持ちで考えることができるのです。ですから当社では、社員の気持ちが温かくなるような場をたくさんつくり出すことに力を入れています。
――社員として必要なもう1つの要素とは何でしょうか?
横塚
お客様にとって何が大事なのか、本質的な意味を考えられることです。我が社の企業コンセプトは「『技術に心を乗せてお届けします』~お客様にありがとうと言われるために~」なのですが、お客様から「ありがとう」といわれることは、実はとてもハードルが高いことです。なぜかというと、要望通りにやっただけでは、お客様に「ありがとう」といっていただけないからです。品質が良く、止まらないシステムを作るということは大前提。そのうえで、お客様に「ありがとう」といっていただくには、お客様のご要望をよく聞き、「本当に実現したいことは何か」を深く考え、「こうしたら、より本当にやりたいことに近づけるのではないでしょうか」と提案し、それが実現した時なんです。我々はこれを「要求開発」と呼んでいます。お客様自身気づいていない本質的な要求を見極め、「ありがとう。これがしたかったんです」といわれる。それこそがSEの醍醐味ではないでしょうか。そのためには、「“うち”としてはここまでしかできない」などと、組織の中の一人として考えるのではなく、いかに人間の素になって温かい気持ちで「お客様のサポートをしたい」と考えられるかどうか。やはりここが、いい仕事ができるかどうかの大きなポイントになってくると思います。