事業立地を変えられるリーダーの土台 ISSUE2 育成の転換点 今の幹部育成で欠けている 4つの『観』とは 三品和広氏 神戸大学大学院 経営学研究科 教授
「現在の日本企業の幹部育成は内向きすぎる」と警鐘を鳴らすのは、神戸大学大学院の三品和広教授である。
現状の延長線上に未来はない環境の中、世界を相手に戦わなければならない。
そんな時代に鋭く舵が切れる事業変革リーダーには、どんなことを学ばせるべきで、どのような機会を与えればよいのだろうか。
Change or Die
「今後はいかなる企業も、外部環境の変化に応じて柔軟かつ迅速に事業変革や再生に取り組まなければ生き残れません。社名にとらわれずに、自社が『何屋』をやるのかという“事業立地”を変えていく必要があるということです」(三品氏、以下同)
従来と異なる事業領域に積極的に打って出る―事業責任者の多くが頭では分かっているものの、実際に動き出すことは、なかなかできない。特に伝統ある企業で創業者を継いだサラリーマン社長ほど自縄自縛状態に陥りがちだ。
「それはある意味、当然の話です。なぜなら伝統ある企業には、OJT を基盤とした教育で鍛え上げられ、今までやってきた領域でこそ力を発揮できる人たちが揃っているからです。彼らは既存領域でこそプロとして認められるのであり、外に出てしまえば素人と変わりません。だから、従来の主力事業にこだわり、その中で改善を尽くそうとする。けれども、そうした活動からブレークスルーが生まれることは決してなく、やがて昔の日本軍のように総玉砕するしかなくなります」
1980年代、Japan as No.1と言われた時代に、日本に抜かれたアメリカは、その後異なる領域で再生した。そして今では日本が、かつてのアメリカのように中国に追い抜かれてしまった。世界の国際特許取得ランキングは、1位アメリカ、2位中国、日本は3位である(世界知的所有権機関WIPO 調査、2017年)。将来の科学力を示す学術論文ランキングでも日本は既に6位まで落ちている。トップは中国、2位がアメリカ、3位はインドである(全米科学財団調査、2016年論文数世界ランキング)。
「熾烈なサバイバルレースが繰り広げられる時代に求められるのは『操業者』ではなく新たな『創業者』です。慣れ親しんだホームベースを後にして、新しい事業を興す。そうした変革を断行する際には、今いる社員たちが全力で引き留めにかかるでしょう。抵抗する社員たちを引きずってでも前に進む。不退転の信念が第二の創業者には求められます」
創業者に求められる4つの「観」
そして、新たに事を興す、もしくは事業の立地を変え、世界と戦う創業者は、4つの「観」――「歴史観」「世界観」「人間観」「事業観」を身につけなければならないと三品氏は言う(図)。