菊池健司氏
- 読書の鬼・菊池健司氏イチオシ 今週の"読まぬは損"
- 1日1冊の読書を30年以上続けているというマーケティング・データ・バンク(MDB)の菊池健司氏。 「これからの人事・人材開発担当者はビジネスのトレンドを把握しておくべき」と考える菊池氏が、読者の皆様にお勧めしたい書籍を紹介します。
ビジネスの未来を見据えるうえで知っておきたいテクノロジーの進化
生成AIが登場して、2025年11月で丸3年が経過した。
リアルタイムで急成長を遂げているこの「令和版の神器」は、既に経営の在り方、ビジネスの在り方、人材の在り方、そして生活の在り方をも大きく変化させている。
生成AIは近い将来、かつてのインターネットがそうであったように、普通に社会インフラになっていくのだろう。
5年前の2020年頃、生成AIの登場を予見して、「2025年にはAIエージェント時代になる、したがって当社としてはその時代に備えて、社会環境の変化をこう捉えて、こういう戦略を立てていく。未来の人材にはこういうことを期待する」といった具合に予見していた方はどれ位いるだろうか?
間違いなく、これからもテクノロジーは劇的に進化していく。
5年後にはとんでもないビジネスツールが登場しているかもしれない。
私がパーソナリティを務めているラジオNIKKEI『グローバル・ビジネス総合研究所(グロビズ)』でも、2回に1回は先端テクノロジーのプロを意図的にお呼びして、クロストークを展開しているのだが、「もうここまで考えている方がいるのか」と毎回驚かされる。
ぜひ、お時間のある時に、のぞいていただきたい。
どの業界で活躍している方も、未来のビジネス環境変化や自身のキャリアを考えるうえで、テクノロジーの進化には目を向けておきたいところだ。
そして、今回ご紹介させていただく1冊は、きっと皆様の知的好奇心をおおいに刺激してくれるに違いない必読の1冊である。
そのタイトルは『東大教授の超未来予測』。
タイトルを見ただけでも読んでみたいと感じられる方が多いのではないだろうか。
日本の最高学府の素晴らしい教授陣による、刺激満載のクロストークが誌面狭しとばかりに展開されている。
本書の編著者は、経済キャスター/ビジネスジャーナリストとして活躍されている瀧口友里奈氏。知の巨人の知見を見事にまとめておられると思う。
本書の構成
本書は、全6章で展開される。
「なんだか未来が漠然と不安だ」―
生成AIをはじめとして、科学やテクノロジーの急速な進化を受けて
これから自分がどう生きていくべきなのか、仕事のことも、子供の教育のことも、将来に不安を感じる人は多いでしょう。しかし、必要以上に未来を恐れる必要はありません…。
このまえがきではじまるこの超刺激的な1冊は、序章を含め全4章で展開されている。
序章:半導体最前線 エヌビディアの次は?
黒田忠広氏(特別教授)×江崎浩氏(大学院情報理工学系研究科教授)
半導体ビジネスは日本が国策としてこれからも勝負をかけていく分野である。
ネクストエヌビディアはビジネスパーソンの大きな注目テーマの1つだろう。
両教授が注目している企業名も登場する。
序章から未来のビジネスヒントが満載で、もう既に元が取れると感じる。
江崎教授の「変わるときは一番面白い。変わる前に最初に気づくかどうか。みんなが気づいたらもうビジネスにならないし楽しくない」というフレーズは強く心に残る。
第1章:脳…量子力学…SF思考でビジネスを生む!?
暦本純一氏(大学院情報学環教授)×合田圭介氏(大学院理学系研究科教授)×野村泰紀氏(カリフォルニア大学バークレー校教授)
個人的にも尊敬してやまない暦本教授と合田教授(生物学・医学)、野村教授(宇宙論・量子重力理論)によるクロストークが展開される。
誰もが夢見たテーマに科学とSFの視点から迫る章であり、難度の高いテーマを楽しみながら学べることの素晴らしさを感じることができる。
「ドラゴンボールのスカウターが実現した未来は危険!?」「ドラえもんの道具は実現できるか」等々、全14のトピックが登場するのだが、言うまでもなくいずれも面白い。
瀧口氏が書かれている「テクノロジーと社会をつなぐのは“ストーリー”」には、私も強く共感する。
第2章:AIと不老長寿…ビジネスに直結する最新技術
染谷隆夫氏(大学院工学系研究科教授)×松尾豊氏(大学院工学系研究科教授)×濡木理氏(大学院工学系研究科教授)
ご存じ松尾教授と半導体デバイス工学の専門家である染谷教授、生物物理学の専門家である濡木教授による大注目のクロストークが展開される。
ヘルスケア関連ビジネスに関与するビジネスパーソン、そしてヘルスケアビジネスへの参入を狙うビジネスパーソンは絶対読んでおいた方がいい。
AI専門家視点で見た生成AIの限界、不老長寿を可能にするゲノム編集、老化を防ぐ最新技術の1つである若返りサプリ、着るだけで健康診断できるTシャツ等々、不老長寿関連技術の現在地がよくわかる。そしてそこから未来を考えていく……ワクワクする世界感が展開される。
第3章:地球温暖化…危機を希望に変えるには
五十嵐圭日子氏(大学院農学生命科学研究科教授)×小熊久美子氏(大学院工学系研究科教授)×江崎浩氏(大学院情報理工学系研究科教授)
地球温暖化――人類に突きつけられた最大の危機を、希望へと変えるにはどうすればよいのか、というテーマでクロストークが展開される。
世界において「地球沸騰化」とよばれる時代に、どのようなテクノロジーやビジネスが解決策として登場するのか実に興味深い論考が展開される。
本章のスタートは「キノコが世界を救う!?」。実は世界の投資家においても、「マイコテック」とよばれるキノコ関連技術は大きく注目されている。
「水不足」時代の到来や日本の農業ビジネスの可能性、宇宙での食料生産など、まさに危機を希望に変えるアイデア満載の刺激的な章である。
ワクワクしながら学べる経営者、次世代リーダー、未来戦略担当者必読中の必読の1冊
本書は、以下のような項目を意識しながら読み進めた。
- 日本最高学府である東京大学の先端知見について、クロストークを通じて学ぶ
- 東大教授陣の注目技術はもちろん、注目企業についても学ぶ
- 未来を考える仕事をしているイチビジネスパーソンとして、新たな知識を注入する
- 本書を参考に未来のビジネスチャンスを予見する
それにしても、東大教授陣のやり取りは刺激的で、思った通り素晴らしい1冊であった。
2023年に刊行されている『東大教授が語り合う10の未来予測』(瀧口友里奈編著/大和書房)と併せて読んでおかれると、さらに理解が深まる。
本書の世界観を動画で体感できるYouTube番組「アカデミークロス」もお勧めである。
テクノロジーの進化、イノベーションの進展。
最高レベルの知見と共に未来に思いを馳せる――。
経営者の方、次世代リーダー、未来戦略策定担当者、人事担当者にかかわらず、
全ビジネスパーソンにお勧めしたい、そんな1冊である。

