
菊池健司氏
- 読書の鬼・菊池健司氏イチオシ 今週の"読まぬは損"
- 1日1冊の読書を30年以上続けているというマーケティング・データ・バンク(MDB)の菊池健司氏。 「これからの人事・人材開発担当者はビジネスのトレンドを把握しておくべき」と考える菊池氏が、読者の皆様にお勧めしたい書籍を紹介します。
人事部門責任者・担当者にとっても重要な「未来」視点
2025年4月、経済産業省の産業構造審議会経済産業政策新機軸部会において、約8年ぶりとなる国の産業構造ビジョンが公開された。
○経済産業政策新機軸部会 第4次中間整理概要(案)
~ 成長投資が導く2040年の産業構造 ~
2040年に向けて打ち出す新機軸を軸として、「合理的に実現可能な明るい将来見通し」を提唱しており、2040年においてGDPは名目+3.1%、賃金は名目+3.3%等、数々の定量目標も掲げている。
本報告書には、「産業構造転換に対応した人材システムの再構築」に関する記述もある。
構造的人手不足のなかで、将来の人材需要の姿を官民で共有することで、次世代を中心とした人的投資を促進し、ミスマッチを解消、というくだりが展開されている。
将来の人材需要に関する報告も近いうちに公開されるだろう。
もちろん、公開された暁には、読者の皆様にいち早く共有させていただく所存である。
未来の産業構造ビジョンについては、人事部門の責任者の方はもちろん、担当者の方にもお目通しいただきたい。
もちろん本提言通りに事が進む保証がないことは十分承知しているのだが、それでも自社の業界を取り巻く大きな方向性や可能性を確認しておくことは、未来人材の育成・獲得にも大きな意味を持つ。
さて、2040年ビジョンを公開しているのは、国だけではない。
2024年12月、日本を代表する経済団体である日本経済団体連合会(経団連)が、「FUTURE DESIGN 2040(FD2040)」という政策提言を発表した。
経団連は、日本の代表的な企業1,574社、製造業やサービス業等の主要な業種別全国団体106団体、地方別経済団体47団体などから構成されている、いわば日本の中心的な団体であり、そうした機関が提言する未来ビジョンには関心をお持ちの方も多いのではないだろうか。
○ FUTURE DESIGN 2040
日本の未来社会の姿とその実現に必要な施策の提言であり、こちらももちろん注目すべき内容だと思う。
「少子高齢化・人口減少」は確定の未来、そして「資源を持たない島国」であることも変えがたい現実である。
こうした重要な諸課題をよく事前に認識しながら、目指すべき国家像を提言している。
もちろん、前述の新機軸部会の資料と同様に、2040年を見据えながら、意欲的な提言を行っている「FD2040」にもぜひお目通しいただきたい。
経団連ホームページで公開されている内容でも十分概要は理解できる。
ただ、この度、「FD 2040」が本になったということで、いち早く読者の皆様にご紹介しておきたい。
書籍のタイトルもそのまま『FUTURE DESIGN 2040』。
著者は2025年5月29日まで会長を務められた十倉雅和氏(住友化学会長)である。
本書の構成
大きくは終章も含めると、全4章で展開されている。
公式サイトで公開されている情報に様々な肉付けがされているので、全体像を理解したうえで、特に注目している部分をピックアップしてお読みいただくのもよいかもしれない。
第1章:FD2040の全体像
ここではタイトル通り、本書の全体像が展開される。
特に課題と施策の「入れ子構造」は重要なキーワードとなる。
第2章:マクロ経済運営と2040年の日本経済の姿
目指すべき姿、そして政府と企業が担うべき役割について言及されている。
第3章では、柱となる7つの施策をピックアップし、それぞれのテーマが章立てされている。
- Ⅰ:全世代型社会保障
- Ⅱ:環境・エネルギー
- Ⅲ:地域経済社会
- Ⅳ:イノベーションを通じた新たな価値創造(Society 5.0+)
- Ⅴ: 教育・研究
- Ⅵ:多様な働き方
- Ⅶ:経済外交
ご覧いただく通り、いずれも自社に大きな影響を与える重要なテーマである。
「未来のキーワード」を知るためにも一通り目を通しておかれることをお勧めしておく。
特に、Ⅵ:多様な働き方、の章は本連載読者の皆様であればより注目しておきたいところだ。「外国人材」や「労働法制の見直し」は、必ず直面するテーマとなる。
ちなみに2040年といえば、いわゆるα世代(概ね2010年~2024年までに生まれた世代を指す)が若手層の中心となっていく。
デジタルネイティブであるこの世代の特徴についても、今から「未来志向」を持って把握しておきたい。
2040年を意識しながら、これからの自組織の在り方を考えたい
本書は、以下のような項目を意識しながら読み進めた。
- 日本を代表する経済団体がどの「課題」に目を向けているのかを改めて学ぶ
- 未来の注目キーワードで自分が見逃しているものがないかを改めて検証する
- 何に手を打つことで「未来が好転する」と判断しているのかを学ぶ
- 若い方々に未来の希望を伝えるための「要素」がないかを熟考する
「FD2040」の概要は経団連ホームページで理解できるが、内容が加筆された書籍に向き合うと、改めて様々な学びと出会えることに気づかされる。
本書を読むうえでは、「何が不足しているのか」「これから何が不足していくのか」という視点を持つことは重要だろう。
もちろん、冒頭でご紹介した経済産業省「2040年の産業構造」も併せてご注目いただきたい。こちらは、2025年6月以降も様々な情報が公開されていくだろう。
本書で度々登場する「成長と分配の好循環」を未来に向けて実現していくために何ができるのか、微力ながら個人的にも大きなテーマとして今後も向き合っていきたいと考えている。
若い方々に少しでも「明るい未来」を伝えていけるように……
未来を考えるきっかけとしたい、そんな1冊になればと思う。