
菊池健司氏
- 読書の鬼・菊池健司氏イチオシ 今週の"読まぬは損"
- 1日1冊の読書を30年以上続けているというマーケティング・データ・バンク(MDB)の菊池健司氏。 「これからの人事・人材開発担当者はビジネスのトレンドを把握しておくべき」と考える菊池氏が、読者の皆様にお勧めしたい書籍を紹介します。
今年も出ました!横軸知識取得のための定番参考書
書評を書く仕事を長くしていることもあり、毎年、「この時期にはこの本が発刊される!」という「定番本」が頭の書棚の中に少なからず入っている。
実は手帳を新調した際には必ず、翌年のこの時期に「恒例のこの本が出る」「恒例のこのデータが発表になる」と真っ先に記入するようにしている。
私にとって、自分の頭の中を「整える」ための習慣の1つである。
早いものでもう9だが、これから年末に向けて、2026年予測トレンド本が今年も多く登場してくるだろう。
世界情勢の不透明さ、業界再編の加速、未来の事業の柱構築への意欲、AIを筆頭にテクノロジーの劇的進化等々、環境変化が大きく変わることが予想されるなかで、2026年も「揺れ動く1年」になることは想像に難くない。
本日ご紹介する1冊もまさにビジネスパーソン必読の「定番本」である。
15年連続売上No.1、そして類書におけるシェア76%を誇る『会社四季報業界地図』の2026年版。毎年のことながら、心待ちにしていた書籍である。
以前、私が出演していたラジオ番組に同書籍の編集長にご出演いただいたことがあるのだが、制作プロセスの様々な苦労話を伺うにつけ、東洋経済新報社の名物誌である『会社四季報』の精鋭記者陣、編集陣の奮闘により、本書が出来上がっていることを痛感させられた。
最新刊となる2026年版は、過去最多の194業界、4,176社の情報が所狭しと掲載されている。業界は増えているのも時代の流れである。
累計280万部を突破した本書を眺めながら、今、約200もの業界で何が起きているのかをじっくりと学んでおきたい。
ビジネスパーソンの知見において、重要なものの1つに「横軸の知識」の取得、すなわち様々な業界における変化を学び、自社や自分のキャリアの参考にしていくという考え方がある。
本書は今年も間違いなく、私たちの「横軸の知識」取得を助けてくれる。
本書の構成
本書は、巻頭特集からスタートする。
最初の「業界地図キーワード」においては、初学者にもわかりやすく、重要用語が解説されている。
個人的に目玉だと思うのは、10年分の天気予想から読み解く栄枯盛衰のコーナーかと思う。4ページに渡り、今回取り上げられている全業界からピックアップされた一部業界の2026年度予想が出ているのだが、10年分の変化を一覧で見られると、やはり意外な発見がある。
毎年安定して晴れが続く業界もあれば、ジェットコースターのごとく、変化が激しい業界も当然存在する。自分のイメージとの違いがあるかどうかを見ておくことをお勧めしておきたい。
その後、「注目の業界」「注目の地域」のコーナーがある。
「注目の業界」で取り上げられたのは、以下の9つ。
「AI」「IP(キャラクタービジネス)」「投資(株式/FX/不動産)」「データセンター」「スポーツイベント」「自動車(中国)」「脱炭素」「ドローン」「スポットワーク」
さすが、今の時代感(空気感?)をよく示している。
あえて「中国の自動車ビジネス」をピックアップしている点は気になるポイントである。
「注目の地域」の海外部分は、「欧州」に始まり、「インド」「米国(GAFAM/IT)」「米国(製造・運輸)」「米国(流通・消費)」「中国」が取り上げられている。
この「注目の地域」は読者からの熱烈なリクエストにより、近年新たに加わったテーマである。
米国をあえて3分野で取り上げているのは、やはりその影響力が大きいことを物語っている。
いずれ世界は4大大国時代に向かうのだが、本書にて「インドネシア」が登場するのも時間の問題かなと思っている。
そして、段々と各業界の詳細俯瞰図が紹介されていく。
主な業界においては、「四季報記者のチェックポイント!」「もうけの仕組み」「オススメ情報源」そして「働く人のクチコミ!」など、幕の内弁当のごとく、描かれており、業界理解が進む。
2026年版では、
「情報通信・インターネット(10業界)」に始まり、「自動車・機械(17業界)」「エレクトロニクス機器(15業界)」「資源・エネルギー・素材(12業界)」「金融・法人サービス(24業界)」「食品・農業(10業界)」「生活用品・嗜好品・薬(14業界)」「娯楽・エンタメ・メディア(19業界)」「建設・不動産(11業界)」「運輸・物流(8業界)」「流通・外食(18業界)」「生活・公共サービス(15業界)」と全12分野194業界について、一気に学ぶことができる。
「顧客」の業界の変化を探る、そして異業種に学ぶうえでも優れた教科書
本書は、以下のような項目を意識しながら読み進めた。
- 「注目業界」において、なぜこの分野が取り上げられたのかを考えてみる
- 各業界のページにじっくり向き合い、キープレーヤーを探す
- 意外な提携や連携がないかと丁寧にチェックする
- 2025年版との違いを自分なりにチェックする
BtoBビジネスに携わっている方は、特に「顧客」の未来を考えるために、自社顧客業界をピックアップして読まれるとよいと思う。
BtoCビジネスに携わっている方は、異業種の事例から学ぶという視点が大切。
ご関心が薄い業界にもどうか目を向けていただきたい。
ヒントはどこに転がっているかわからないのが、そう、これからの時代である。
前述の「横軸の知識」の重要性は増すと思う。
なぜなら横軸の知識がないと、「新たな組合せ」を想起するうえでの知識が不足してしまうからである。
そして、毎年定期的に刊行される書籍を読むうえで重要なポイントは、前年版と比較すること。
業界の入替えは果たして?なぜこのテーマが「深読み」に選ばれているのか?
変化を知ることは、時代感を知ることにつながる。
研修などでも、ご参加の方々に「自分の業界以外でもっとも注目した業界」を選んでいただき、なぜその業界に注目したのか、皆で意見交換を行えば、様々な発見があると思う。
1冊で多様な業界を俯瞰することができるベストセラーを読まない手はない。
もちろん、本連載読者の皆様には、いち早くお目通しいただきたい1冊である。