今週の“読まぬは損”

第201回『プロレスの味わい 世界から地方に来て幸せになった男』

菊池健司氏 日本能率協会総合研究所 MDB事業本部 エグゼクティブフェロー

菊池健司氏

読書の鬼・菊池健司氏イチオシ 今週の"読まぬは損"
1日1冊の読書を30年以上続けているというマーケティング・データ・バンク(MDB)の菊池健司氏。 「これからの人事・人材開発担当者はビジネスのトレンドを把握しておくべき」と考える菊池氏が、読者の皆様にお勧めしたい書籍を紹介します。

世界を知るアスリートに学ぶことの重要性

今回はいつもとは少し違うテイストの書籍をご紹介したい。

個人的な話で恐縮だが、幼少の頃からプロレスが好きで、今でもよく見ている。
コロナ禍を経験したので、試合会場で直接試合が見られる喜びは何事にも代えがたいものがあると改めて思う。
皆様もよろしければ、ぜひ会場に足を運んでいただきたい。

近年は動画配信等を利用して海外の試合も見られるので、ありがたい時代になったものだと感じている。

ちなみにこれまでの人生のなかで、向かい合ったときにそのあまりのオーラの凄さに体ごと吸い込まれそうになったのは、後にも先にも故アントニオ猪木さんだけだ。

そんなプロレス好きの私が、ビジネスパーソンとしての目線で常に注目しているのが、以下の3名の方である。

棚橋弘至氏(新日本プロレスリング 代表取締役社長兼現役プロレスラー)
※2026年1月引退予定
里村 明衣子氏(センダイガールズプロレスリング 代表取締役社長)
※2025年4月引退
TAJIRI氏(九州プロレス所属 現役プロレスラー)

お三方の共通点は、日本で著名であることはもちろんのこと、世界の大舞台でも成功を収め、世界的にも著名なことである。

棚橋氏と里村氏は今後、日本のプロレス界をさらに高みに連れていくことを標榜しながら、経営者として大活躍されていくと思うし、大いに期待(応援)している。
今回ご紹介したいのは、プロレスラーとしての実績はもちろん素晴らしく、さらには「文豪レスラー」として多数の著作でも知られるTAJIRI氏の注目の新刊である。

TAJIRI氏は大日本プロレスでデビュー。メキシコや世界最大のプロレス団体であるアメリカ「WWE」で長きに渡り活躍、現在は「九州プロレス」所属レスラーとして、後進育成にも尽力されている。

新刊のタイトルは『プロレスの味わい』。サブタイトルは『世界から地方に来て幸せになった男』だ。

ユニークなエッセイ集なのだが、「地方移住」「海外での経験の重要性」、そして「チャレンジすること」「人生を楽しむこと」について学ぶことができる。

本書の構成

本書は西日本新聞での随筆連載を中心に、新たな書下ろし原稿を加え、全5章78の物語で構成されている(西日本新聞で連載を続けられるということがそもそも凄いことだと思う)。

1編2ページの物語、きっと楽しく読んでいただけるだろう。

第1章:いま九州プロレスに

本章では、TAJIRI氏が今現在所属している九州プロレスでの日常が14編紹介されている。
九州、とりわけ博多は今非常に勢いのある街だと思うが、誌面からその日常が飛び出してきそうな臨場感で物語が展開されている。

第2章:プロレスラーを目指して

本章では、10編の物語が紹介されている。
思わず、くすっと笑ってしまう話も含めて、TAJIRI氏のプロレスラーになるまでの道筋や仕事観について、学ぶことができる。

第3章:舞台は海外へ

本章では、メキシコ、そしてアメリカでのレスラー生活の物語が18編紹介されている。
世界最大のプロレス団体であるWWEでのデビューに至るまでのストーリーが、民間企業でいえば、転職ステップアップを彷彿とさせる。

第4章:プロレス深夜特急2023

本章では、18編の物語が紹介されている。
TAJIRI氏の存在は世界中で知られており、ご自身も海外の知名度の方が日本より高いと書かれている。
本章はまさにプロレス版深夜特急であり、物語は、イタリア→デンマーク→フランス→マルタ→イギリス→アメリカ→そして日本へとつながっていく。
「物価が高いなら頭を使ってお金を生む」というのは、なるほど確かにそうだと感じる。(詳しくは本書にて)
それにしても、本書を読んでいると、行ったことがない国の情景が頭に浮かんでくるから不思議である。そして紹介されている国/地域に行ってみたくなるのだ。

第5章:日々のこと、これからのこと

本章では、19編の物語が紹介されている。
終章ということもあり、さらにTAJIRI氏の人生観、今の世の中への思いが伝わってくる。
「ネット民」「今の世の中、梶原一騎が足りない」「幸せに生きていくために必要なこととは」この3編は特にお勧めである。

「プロレスの味わい」から学ぶ「人生の味わい」ぜひお読みいただきたい1冊

本書は、以下のような項目を意識しながら読み進めた。

  1. 世界を知るTAJIRI氏の世界観を学ぶ
  2. 一歩踏み出す、変わることを恐れないことの重要性を改めて学ぶ
  3. 日本の地方都市の魅力を高めるための策を自分なりに熟考する
  4. 自分の今後の人生の指針とさせていただく

尊敬してやまないプロレスラーの生きざまについて、本書を通じて学ばせていただいている。ありがたいことである。

あとがきにある九州プロレス理事長である筑前りょう太氏のTAJIRI氏評も注目の論考である。ぜひご覧いただきたい。

本書を読んでいると、世界中の有望な若者たちが、なぜ”TAJIRI氏を慕って”九州プロレスにやってくるのかがよくわかる。

「人生」について考える、「人望」について考える、「経験の重要性」について考える……。

プロレスというスポーツにこれまで関心がなかった方にもお読みいただきたい。
ヒントはどこに存在するかわからない。

きっとお読みいただいた後に、皆様の心のなかに様々な余韻を残してくれる。間違いなく、そんな素敵な1冊である。

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