今週の“読まぬは損”

第198回『人生後半 幸せ資産の増やし方』

菊池健司氏 日本能率協会総合研究所 MDB事業本部 エグゼクティブフェロー

菊池健司氏

読書の鬼・菊池健司氏イチオシ 今週の"読まぬは損"
1日1冊の読書を30年以上続けているというマーケティング・データ・バンク(MDB)の菊池健司氏。 「これからの人事・人材開発担当者はビジネスのトレンドを把握しておくべき」と考える菊池氏が、読者の皆様にお勧めしたい書籍を紹介します。

定年後の活躍を見据えて

厚生労働省「令和4年就労条件総合調査 結果の概況」によれば、約72%もの企業が、定年年齢を60歳と定めている。
また何らかの形で、勤務延長制度(再雇用等)を採用している企業は約94%である。

厚生労働省「令和4年就労条件総合調査 結果の概況」

人生100年時代の流れを受けて、段々と定年延長のトレンドは進んでいくだろう。

2040年には1100万人もの労働力不足に陥る可能性がある日本。
AIの進化は言うまでもなく相当に早く、ロボット化も進捗するので、一定の労働力不足はカバーされるにしても、10年後すべてが解決されている未来はさすがに難しいと思う。

企業側からすれば、人手不足という課題は大きい。
しかも、労働者に期待されるビジネススキルは、テクノロジーの進化と共に確実に変化していく。
とはいえ、ベテランの経験値は替えがきかないことも多く、「高年齢層の方にいかに活躍していただくか」は引き続き、重要なテーマである。

労働者数の半数以上をミレニアル世代とZ世代が占めていくこれからの時代においても、労働力不足が確定の未来と想定すると、今からシニア社員の処遇は考えておかねばならない(本連載の読者の皆様に対しては、それこそ「釈迦に説法」話であるが……)。

そして、働く側からしても、できることなら「60歳の壁」にとらわれず、ワクワクしながら働ける未来があればそれは大変うれしいことだ

私自身も60歳に順調に近づいているのだが、去年よりも今年、そして今年よりも来年、より成長した自分でありたいと常に願っている。

そこで、多くの企業・機関の皆様の今後のために、そして働いている皆様方の未来のためにぜひともお勧めしたい1冊を今回は取り上げる。

その名も『人生後半 幸せ資産の増やし方 ポーラ幸せ研究所発 定年後もワクワク生きたい!』
化粧品大手のポーラで長年「数字の鬼の営業部長」の異名を取り、再雇用後は「ポーラ幸せ研究所」の研究員として活躍されている「ワクワクまーくん」こと佐野真功氏による注目のデビュー作である。

本書そのものが高年齢社員向け研修テキストになるのはもちろんのこと、若い方が読んでも未来のキャリアづくりのために大いに参考になる1冊だと思う。

本書の構成

全7章で構成されている。

CHAPTER1 定年後の「不安」を「ワクワク」に変えよう

佐野氏ご自身が定年前後に「ワクワクイキイキ」できていない社員であったものの、社内で受けた「プロティアン・キャリア」をベースにした研修に大きな影響を受け、社内プロジェクト等も経て、本書執筆に至った流れや思いが紹介されている。

CHAPTER2 「幸せ資産」を増やす「人生ワクワクプログラム」

実際に佐野氏がつくった「人生ワクワクプログラム」の内容について詳しく紹介されている。
ポーラでは40代以上の社員の方に提供されている。
社内調査結果を基にした、ミドルシニアの働きがいを決定する3つの要素である①「利他・貢献」②「働き方」③「関係性」の紹介も興味深い。
「幸せ資産」を増やすために理解しておきたいサイクルは44ページに図示されている。

CHAPTER3 「人生ワクワクプログラム」実践編(1)「仕事力」「生きる力」「つながり力」の現状を知る

ここからの3章は、タイトル通り、「人生ワクワクプログラム」の実践編である。
P.56で登場する「キャリアの棚卸表」をまずは作成してみよう。
記入方法は、凡例紹介も含めて、丁寧に記載されており、ありがたい。
「仕事力」のワークシートは8枚、「生きる力」「つながり力」ワークシートはそれぞれ2枚、用意されている。
ご記入いただくとわかるが、心地よく悩みながら向き合うこととなり、実に「書き応え」がある。

CHAPTER4 「人生ワクワクプログラム」実践編(2) 老後の「お金の安心」を発見する

お金があれば全て解決というわけではないのだが、それでも「安心」を手に入れることは人生において重要である。
佐野氏ご自身がファイナンシャルプランナーであり、5枚のワークシートで、自分の「お金の安心の棚卸し」ができる。
私見だが、特にワークシート4の100歳までのキャッシュフロー表を作成しながら、いろいろと考えさせられた。
老後のお金の本がよく売れている時代だが、キャリアプランの一部として「お金」の解説がされていることが重要なのだ。本書を読み、改めてそう思う。

CHAPTER5 「人生ワクワクプログラム」実践編(3)未来のために「やりたいこと」を見える化する

そしてメインイベントである「5年後の未来の見える化」の進め方がこの章で紹介されている。
ここでも数々のシートが登場するが、ここまで書いてきたワークシートに「5年後」視点を加えたりしながら進めていく。
「ワクワクアクションプランシート」ができたら、実行に移していく。もちろんつくって終わりではない。
「行動の蓄積」こそが「幸せ」を実感する方法である、という佐野氏の言葉に頷きながら読み進める。

CHAPTER6 座談会 年を重ねるほど幸せになる人はココが違う!

前野隆司×及川美紀×佐野真功
この章も興味深い。慶應義塾大学大学院教授であり、日本のウェルビーイングー研究の第一人者である前野氏(佐野氏と同世代とのこと)とポーラ前社長である及川氏も交えた座談会の様子が掲載されている。
「加齢によって失われる能力はないと言ってもいいかもしれない」というコメントには勇気づけられる。

CHAPTER7 70代以上の50人に聞きました!

ポーラ ビューティーディレクターたちがワクワクと働き続けられる理由
最初に登場する御年101歳・堀野氏のインタビューコメントに始まるバリュー満載の6ページが展開される。

人生後半は誰にでもやってくる。だからこそ読んで「自分の棚卸し」をしておきたい

本書は、以下のような項目を意識しながら読み進めた。

  1. イチ50代後半ビジネスパーソンとして、自分ごとと捉えてまずは熟読する
  2. 未来洞察研修の講師として、「未来洞察」×「人生後半キャリア」のかけ算視点でのヒントを探る
  3. ワークシート作成を通じて、自分と向き合うことの重要性を再認識する
  4. ワクワクしながら生きていくことの重要性を本書を通じて改めて理解する

本書で登場するワークシートに向き合ってみると、ところどころ考えさせられ、つい手が止まってしまう。
シートに向き合い考えていると、時間の経過の早さに驚かされた。

もちろん、人生後半の「幸せ資産」をつくるために、この時間は大切なプロセスである。

多くの読者の皆様が日々忙しく過ごしておられると思うが、一旦立ち止まって考えることの重要性を本書が教えてくれる。

本書で登場する取り組みを参考にしながら、ぜひ自社社員の方の、そしてもちろん自らの「幸せ資産」づくりにトライされることをお勧めしておきたい。

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