菊池健司氏
- 読書の鬼・菊池健司氏イチオシ 今週の"読まぬは損"
- 1日1冊の読書を30年以上続けているというマーケティング・データ・バンク(MDB)の菊池健司氏。 「これからの人事・人材開発担当者はビジネスのトレンドを把握しておくべき」と考える菊池氏が、読者の皆様にお勧めしたい書籍を紹介します。
未来を見据えるうえで大切なこと
私は普段、顧客のビジネス活動支援(未来戦略策定等)や未来情報の収集・活用方法を伝える研修・セミナー講師業務を主に担っているのだが、常に「この方」の論考には注目しておかなくては、と強く意識している方が数名存在する。
そのうちの一人が、今回紹介する著書の執筆者であるケヴィン・ケリー氏である。
テクノロジーと人類のポジティブな未来像を示し続け、「ビジョナリー」とも称される著名な論客であり、『WIRED』の創刊編集長でもある。
個人的にも尊敬してやまない方であり、以下のような著書でも知られる。
『テクニウム――テクノロジーはどこへ向かうのか?』(2014年/みすず書房)
『<インターネット>の次に来るもの 未来を決める12の法則』(2016年/NHK出版)
『5000日後の世界 すべてがAIと接続された「ミラーワールド」が訪れる』(2021年/PHP研究所)
過去に発刊されたこれらの書籍を、いま改めて読んでみると、いかにこの方の論考が優れているかが実感できると思う。
そのケヴィン・ケリー氏の新刊が発刊されたとなれば、紹介しないわけにはいかない。
新刊のタイトルは、『生きるための最高の知恵 ビジョナリーが未来に伝えたい500の言葉』。
文字どおり、短いながらも心に響く人生訓が500編に渡り、展開される。
ケヴィン・ケリー氏が自分の子供たちに残すために書いた「珠玉」の言葉集である。
ただ、多くのビジネスパーソンにとっても、自分の今後の教訓にできる「英知」をところどころで見つけていただけるのではないだろうか。
もちろん私自身も本書を既に繰り返し読み、未来に思いを巡らせているイチビジネスパーソンである。
本書は、「これは偶然生まれた本だ。最初から執筆の計画があったわけではない」というまえがきから始まる。
本書の構成
本書は2つの章を中心に展開される。
「僕が若いときに知っておきたかったこと」。この章では210ページにわたり、英語版同様460の言葉が紹介されている。
そして「日本語版への特別な言葉」の章では、日本語版発刊にあたり、新たに追加された40の言葉が紹介されている。この章も実にありがたい。
本書の翻訳者は池村千秋氏。
最後に、服部桂氏による解説も掲載されており、読み応え満載の1冊に仕上がっている。
ケヴィン・ケリー氏自身がおっしゃっている通り、1日に2、3個くらいずつ、読み進めていくのがいいかもしれない。
私が特に注目した「言葉」のごく一例をご紹介したい。
本当は全て紹介したいのだが、そうすると、500個全てになってしまいそうだ……。
それほどの本であることは力説しておきたい。
003)上手に聞く力はひとつの超能力だ、大切な人の話を聞くときは相手の言葉が尽きるまでずっと問いかけ続けよう。もっと聞かせてほしい、と。
→これは、上司に対しても部下マネジメントにおいても、大切な考え方だろう。
004)かならず締め切りを決めよう。そうすればピントがズレたものや平凡なものを排除できる。完璧を目指せない代わりに独自性があるものを生み出さなくてはならなくなる。独自性があることは常に好ましい。
→先日、あるミュージションの方と話す機会があったのだが、その際にも近しい話題があった。「締切り」の重要性を自分にもよく言い聞かせたい。
012)休憩を取ることはあなたが弱い証拠ではない。あなたが強い証拠だ。
→ついつい休まないことを選択してしまう時代を生きてきた人間として、この短い一文からも諸々考えさせられる。
022)移動+多様性=健康
→2025年の1つの大きな教訓として実践していきたい。
033)どの道に進めばいいか判断に迷うときは変化をもたらす道を選べ。
→自身の将来を考えるうえでも、間違いなく“バイブル”となる言葉である。
041)最高を目指すな。唯一無二の存在であれ。
→少なくとも、自分のストロング領域においては「こうありたい」と思わせてくれるありがたい言葉である。
463)自分への投資に躊躇は無用だ。講座や研修のためにお金を使おう。そのささやかな支出がやがて計り知れない恩恵を生む。
→日本語版で追記されている言葉の1つ。数々の未来を読み解いてきた著書の言葉だからこそ、重みがある。これからも自分に投資していこう。
1年かけてじっくり向き合いたい500の言葉
本書は、以下のような項目を意識しながら読み進めた。
- 世界を代表するビジョナリーとして尊敬してやまないケヴィン・ケリー氏が発する考え方そして思いを噛みしめながら学ぶ
- 500全ての言葉にじっくり向かい合いながら、本と対話する。これから自分が何をすべきかを考える
- 特に注目した言葉(実のところ、全てなのだが……)をノートに書き写し、自分の思いを書き留める
- 自分で十分咀嚼したうえで、若い方々に大切な考え方を少しでも多く伝えていく
服部桂氏の解説によれば、「もう本は書かない」と言っていたケヴィン・ケリー氏が「実は今度こういう本を出すことになった」と出してきたのが本書とのこと。
WIREDのインタビューによれば、今後構想中の書籍もあるようで、愛読者としてはうれしい限りである。
本書は、これまでの氏の著書とは大分趣が異なるが、日本語版向けボーナストラック付きで読めるのは本当にありがたいことだと思っている。
電子書籍で読み始めたのだが、どうしても現物を手元に置きたくて、すぐさま本を手に入れた。
若者向けに書かれた本だが、アメリカでは、老齢に達したケヴィン・ケリー氏と同世代の人々にも幅広く読まれているようだ。
ちなみに本書の中には、以下の言葉も登場する。個人的にはもっとも好きな言葉である。
「飛び抜けた人間になりたければ本を読め。」
デジタル社会に精通する著者が大切にしている価値観、そしてメッセージ。
本書を読んでいると、沸々と熱い思いがこみあげてくるのを抑えられない。
想定読者層であるZ世代に代表される若者たちはもちろんだが、ビジネスリーダーの皆様、大ベテランの領域に突入している私と同世代の皆様にもぜひとも手に取っていただきたい。
「心を揺さぶられる」素晴らしい言葉の数々から得られる教訓はあまりにも大きい。