菊池健司氏
- 読書の鬼・菊池健司氏イチオシ 今週の"読まぬは損"
- 1日1冊の読書を30年以上続けているというマーケティング・データ・バンク(MDB)の菊池健司氏。 「これからの人事・人材開発担当者はビジネスのトレンドを把握しておくべき」と考える菊池氏が、読者の皆様にお勧めしたい書籍を紹介します。
人口減少は確実にやってくる
前々から言われていることではあるが、人口減少は確実に訪れる未来である。
国立社会保障・人口問題研究所の最新の調査結果によれば、日本の人口は2070年には8,700万人まで減少(2020年比7割弱)し、65歳以上人口が約4割を占めるようになる。
都道府県別でみると、東京都以外の46道府県で人口が減少することが予想されている。
県によっては、2050年には現在の6割弱まで人口が減少すると予想されているところまで出てきている。
各自治体が、必死で地域戦略を考え、時にはSF作家の方と連携して未来戦略を策定するような流れになっているのは、在住者の流出阻止はもちろん、移住者やUターン者を少しでも増やしたいという思惑がある。
こうした予測データを眺めながら、「この国でこれから何が起こるのか」については、全ビジネスパーソンが意識しておかなくてはならないであろう。
以下、代表的なデータ例である。
○「日本の将来推計人口(令和5年推計)結果の概要」(2023年4月)
○「日本の地域別将来推計人口 令和5年推計」(2023年12月)
○「日本の世帯数の将来推計(都道府県別推計)」(2024年11月)
ちなみに日本を語るうえでの1つの指標である「人口1億人」を割り込むのは、2056年頃と推計されている。
あと約30年、「1億人ポテンシャル」を保つことができる日本だが、まだ先とは言っていられない。
今のうちから、未来に思いを馳せ、「次の打ち手」を考えておかなくてはならない。
そこで今回、ぜひ皆様にご紹介したいのが、ベストセラー『未来の年表』シリーズの著者である河合雅司氏の注目の新刊である。
その名も『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』。
人口減少を確定の未来として受け入れつつ、多くの不安要素や既に起こっている厳しい現実の予兆を鋭く指摘しつつも、最後はやはり河合氏ならではの論考による「次の打ち手」をどうすべきかが学べる、私たちにとって実にバリューの高い新書である。
出版社のお薦めコメントとして、「この最新刊を読まずして、これからの人口減少・地方再生問題は語れません。全国民必読の1冊です。」とあるが、その通りだと思う。
本書の構成
本書は、全3章で構成されている。
第1部:100年で日本人8割減
本章では、前述の国立社会保障・人口問題研究所の調査の課題点を指摘しながら、本調査よりも早いペースで人口減少が進む可能性を示唆、厳しいシナリオを私たちに提供してくれる。
途中でグラフも出てくるのだが、外国人の受け入れが増加していくと、「20~30代の5人に1人は外国人」という未来が到来しても確かにおかしくない。
第1部の終わりでは、「戦略的に縮む」という成長モデルは敗北主義とは異なる。これまでどの国でも試されたことのないアグレッシブなチャレンジだ、という記述がある。
ぜひ、そのまま読み進めていただきたい。
第2部:見えてきた日本崩壊の予兆
本章のタイトルも心に刺さるものがあるが、目を背けることなく読んでおかなくてはならない章である。
日本崩壊の予兆が16のトピックを示しながら、紹介されている。
いずれも注目すべきトピックなのだが、特に私の目に留まったトピックを1つ挙げておく。
○「空気」を運ぶトラック運転手の悲哀
今年は「2024年問題」という言葉が話題となった。
なかでもトラック運転手の時間外労働規制に伴う物流問題については、専門誌はもちろん、一般メディアでも大きく取り上げられた。
自動運転や宅配ロボット等、テクノロジーは確実に進化しているものの、まだ実用化には「時差」が伴うことは今日までの流れを見ていても明らかだ。
本書にも書かれているが、「重い家電製品の配送、設置」等は自動運転技術だけでは解消できない課題を伴う。
ちなみに本稿のタイトルである「空気」を運ぶというのは、トラック積載率が2010年~2022年は40%以下の低水準が続いていることからきている(行きは満載だが、帰りは空になると積載率は当然下がる)。
積載率を高める取り組みは、河合氏の指摘の通り、有効策の1つだと私も思う。
本章の16トピックを読み、困難を逆手に取るためのアイデアを創出してみていただきたい。私ももちろんトライしている。
第3部:人口減少を逆手に取る
第2部まで、日本の未来にとって非常に厳しいトピックが続くが、終章となるこの3部では、7つの活路が描かれている。
日本が「縮んで勝る」ための処方箋として、それぞれの活路について、ぜひ対話しながらお読みいただきたい。
ちなみに、本連載フリークの皆様には、【第3の活路】である「従業員1人あたりの利益」を経営目標とせよ、における「リスキリング」の在り方の考察をヒントにしていただけると良いのではないかと思う。
未来の日本の「勝ち筋」を見極めるためのエールを本書から読み解きたい
本書は、以下のような項目を意識しながら読み進めた。
- テクノロジーの進化を想起しながら、解決できることとできないことを整理してみる
- 著者と私自身の考えの合致点と相違点(より学ぶべき点)を見極める
- 日本の危機を救うための新たな「打ち手」を考えるうえでの参考材料とさせていただく
- そして、「縮む」日本ならではのビジネスチャンスを検討する
私は今、ラジオの新番組のMCを務めているのだが、ご出演くださるゲスト経営者の皆様と収録の合間に話していると、それぞれ表現は違えど「日本は相当なピンチの状況にある」というコメントを口々にされているのが、今年は特に印象的であった。
○ラジオNIKKEI「グローバル・ビジネス総合研究所」(毎週木曜昼12:00~12:30)
本書を幾度か繰り返し読んでみて、50代後半のイチビジネスパーソンとしても、いろいろと考えさせられている。
仕事柄、日本という市場がグローバルから注目されていることも理解している。
「日本で起こることが、いずれは自国で起こる。だから日本には注目している」と語る海外ビジネスパーソンは私の知り合いのなかにも多い。
今回の1冊は、厳しい現実や未来像を指摘しているが、日本が「勝つ」ための著者のメッセージは実に“暖かい”と個人的には感じている。
トップから新人の方に至るまで、どうか目を背けずにお読みいただきたい1冊である。
そして未来の日本について、一緒に思いを馳せていきたいと願う。
皆様の組織内でも読書会を開いてみてはいかがだろうか。