菊池健司氏
- 読書の鬼・菊池健司氏イチオシ 今週の"読まぬは損"
- 1日1冊の読書を30年以上続けているというマーケティング・データ・バンク(MDB)の菊池健司氏。 「これからの人事・人材開発担当者はビジネスのトレンドを把握しておくべき」と考える菊池氏が、読者の皆様にお勧めしたい書籍を紹介します。
いつしか逆転されてしまった日本
2024年も気がつけば残すところあと2カ月程となった。
振り返るには少々早いのだが、おそらく、今年の経済ニューストップ10に間違いなく入ってきそうなのが、名目GDP(ドル建て換算)がドイツに抜かれて世界4位となったという話題だろう。
主要メディアでもトップニュースで扱われていたので、注目した方も多いと思う。
(一例)NHK国際ニュースナビ
内閣府による参考データがこちらである。ニュースで気になった話題はぜひ、元データも見ておきたい。
内閣府「月例経済報告等に関する関係閣僚会議資料」2024年2月21日
内閣府のレポートでは、以下のようなフレーズが登場する。
「2023年のドイツの名目GDPは、米ドル換算で日本を上回った。米ドル換算のGDPは、為替レートの影響を受けること、また、日本に比べ、ドイツの物価上昇率が高いことに留意が必要。ただし、ドイツは、日本の3分の2の人口、約6割の就業者数、約8割の労働時間で日本と同程度の名目GDPを実現、生産性が高い」
DX化への対応、AIの活用等々も含め、日本の組織も生産性向上のために、たゆまない努力をしているが、試行錯誤の状況は続いている。
DX、AIのみならず、生産性向上において、「答え」を見つけた企業や組織がこれから大きく成長していくのだろう。
そして「答え」を見つけるためには、「参考書」が必要となる。
GDPで日本を抜いたドイツ、日本政府も注目しているドイツの生産性について、改めて学ぶための読み応え満載の書籍が刊行されたので、ぜひ今回ご紹介したい。
その名も『ドイツ人のすごい働き方 日本の3倍休んで成果は1.5倍の秘密』。
本連載読者の方であれば、迷わず「買い」の1冊である。
現役ドイツ在住商社マンであり、2つの会社で計17年間ドイツに在住、欧州向けビジネスに30年間にわたって携わっている西村栄基氏による大注目の1冊である。
自らがドイツの働き方に衝撃を受け、その後の人生が変わったという著者の臨場感あふれる記述に感じ入りながら、一気に読んでしまった。
本書の構成
本書は、全4章で構成されている。
序章では、朝6時に始まる「ドイツ企業の1日」の紹介から始まる。
朝早く出社して、夕方には仕事を終える。仕事とプライベートのバランスを大切にしている、個人の時間を大切にするという価値観が良く伝わってくる。
余暇重視の傾向が拡がっている今の時代感において、日本企業が学ぶ点は多い。
(考え方は簡単にすぐには代えられないが…)
カフェスペースの効用のエピソードや、「人生の半分は整理整頓」という価値観もなるほどと思う。
散らかっている自分のデスク周りを見て、思わずため息が出る。整理整頓しなくては……。
第1章:抜群の生産性を生むドイツ社会の仕組み
本章では8つの項目で注目すべきエピソードが展開されている。
1年の4割近くが休みとなっているドイツでは、長期休暇取得を前提に社会が回っている。
本章で特に印象に残ったのは、ドイツ人の仕事観が実は「勤勉」には遠いということである。
これには歴史的な背景もあり、読んでいくとなるほど、となる。
「個」として何の専門家なのかが常に問われるというのも、ドイツらしいと感じる。
近年ドイツのものづくり企業が改めて世界で注目されていると感じているのだが、改めて「マイスター制度」(職人精神の体現)に関するくだりを読んでいても、その強さの源泉に触れることができると思う。
第2章:無理せず成果が出る「ドイツ式働き方」
本章では、10項目にわたるエピソードが展開されている。
言うまでもなく、いずれも興味深いのだが、何点か紹介させていただくと、
「ホワイトボードを活用して発想を刺激」の項を読み、それ以降、研修講師を務める際には必ずグループごとのホワイトボードをご準備いただくよう、顧客にお願いしている。
「ドイツ人が毎日欠かさずとる2種類のメモ」の項も、ドイツの生産性を知るうえで注目しておきたい。「帰宅メモ」「朝の15分ロードマップ」そして「青色」……。
個人的にも既に実践しているが、効果を実感している。
第3章:メンバーの能力を引き出す「ドイツ式マネジメント」
本章では、8項目にわたるエピソードが展開されている。
ドイツ企業でマネジャーを務めるのは大変そうだなと感じる方も多いと思う。
管理職の皆様は本章を参考に、部分的にでも自分のマネジメントスタイルに取り入れていれることをお勧めしておく。
特に「なぜ日本の組織は空気を読むのか?」の項は注目ポイントだろう。
「日本語=ハイコンテクスト言語」「ドイツ語=ローコンテクスト言語」という特徴を理解しながら、自組織の在り方を思い浮かべていただきたい。
第4章:ドイツ式×日本 ハイブリッドワークスタイルのススメ
終章となる本章においては、5項目にわたるエピソードが展開されている。
仕事を「フロー型」と「ストック型」に分類し、「フロー型」(その場をしのぐための仕事)を徹底排除していくという考え方は、ドイツの生産性の高さの1つのポイントだと、本書を通じて改めて感じる。
そして最後のエピソードとなる「あえて空気を読まない自発型KY人間を目指す」
詳しくはぜひ本書でご確認いただきたいのだが、私はこの世界観を目指していることをそっと告白しておく。
今こそドイツの生産性に学ぶ時期 ぜひ読んでおきたい1冊
本書は、以下のような項目を意識しながら読み進めた。
- GDPで日本を抜いたドイツの強さに改めてフォーカスする
- 元々、特に製造業分野における生産性で評価の高いドイツの働き方に学ぶ
- 意外なドイツの働き方の特徴を改めて理解する
- 自分に取り入れるべき点を本書と対話しながら熟考する
元々、吉越浩一郎氏(トリンプインターナショナル元社長)の書籍が好きで、吉越氏の影響を受け、ドイツ流働き方には随分と前から注目していた。
今回、西村氏の著書と「対話」してみて、改めて日本企業がドイツの高生産性に学ぶことは数多と痛感した次第である。
人事部門、マネジメントに携わる方はもちろん必読、そして新人からベテランの方まで、2025年以降の働き方を考えるためにもぜひ向き合っていただきたい1冊である。