菊池健司氏
- 読書の鬼・菊池健司氏イチオシ 今週の"読まぬは損"
- 1日1冊の読書を30年以上続けているというマーケティング・データ・バンク(MDB)の菊池健司氏。 「これからの人事・人材開発担当者はビジネスのトレンドを把握しておくべき」と考える菊池氏が、読者の皆様にお勧めしたい書籍を紹介します。
どの業界も最新テックからは逃れられない
生成AIの進化スピードを見ていると驚かずにはいられない。
2022年11月のChatGPT登場を契機に、生成AIの話題を聞かない日はないというフィーバーぶりだ。このテクノロジーに無関係な業界は原則存在しないだろう。
生成AIについては「今は少し様子を見ている」という方も多いと思うが、数年後には確実に仕事の、そして生活のインフラとなっていく。
そう、インターネットやスマートフォンがそうであったように…。
Gartnerが毎年公開している「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル」は大変興味深い。
2024年8月に公開された最新データを見ていても、耳なじみのない新しいテクノロジーの名称がいくつか登場している。
○Gartner「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2024年」
先読みが難しい今の時代だが、テクノロジーはこれから何が起ころうと進化していく。
もちろん、人材育成に関わる皆様にも今後のテクノロジーの進化には、ぜひ注目いただきたい。
テクノロジーの進化は、未来に向けて必要なビジネススキルや人材像をも変えていくだろう。
そこで今回ご紹介したいのが、京都大学客員教授である山本康正氏の注目の新刊である。
タイトルは、『2035年に生き残る企業、消える企業 世界最先端のテクノロジーを味方にする思考法』。
(山本氏の著書は、過去にも本連載でご紹介してきた通り、個人的には「著者買い」している)
今作もタイトルを見た段階で、読んでみたいと感じる方は多いと思う。
最新テクノロジーを味方にすること―― 。それは未来の顧客の変化、自社の変化、そして自分のキャリアのこれからを考えるうえでも非常に重要だ。
「日々進化するテクノロジーの周辺事情とトレンドを、自ら取りに行く」スキルについて、本書を通じて学んでいただければと思う。
本書の構成
本書は全3章で構成されている。
第1章:いま押さえておくべき最新テクノロジーの潮流 最新の「テクノロジー」を知る
この章では、山本氏が効果的だと考える最新テックの捉え方を学ぶことができる。
最初にCESを現地で見ることの有用性が紹介されている。
CESは、毎年1月に開催される全米民生技術協会(Consumer Technology Association、CTA)が主催する世界最大のエレクトロニクスショーを指す。
生成AI祭りとも言えようか、2024年のCESに関する印象、日本企業の課題感についても紹介されている。
本章を読んでいると、改めて「現地での観察」に勝るものはないということを再認識する。
そして、有力テック企業の「開発者会議」という重要キーワードも登場する。
山本氏による最新テクノロジー動向解説も、注目しておきたい論考が数々展開される。
第2章:企業も人材も、最新テクノロジーの潮流に乗り遅れれば淘汰される
本章も、テクノロジーの進化が業界の垣根をなくしていく豊富な事例をはじめとして、興味深いトピックが展開されているが、「最新テクノロジーの知識を非技術系社員も身につけている企業が強い」の項は特に注目しておきたい。
「テクノロジーの潮流を読み誤らないために」の項では、ついつい間違えてしまうありがちなミスとその対処法が書かれている。
「若手を逆メンターにする(リバースメンタリング)」「ベテランこそ意識的に新しい空気を取りこむべき」など、これからの社員育成に役立つヒントも随所に登場する。
私も意図的に年の離れた若い社員の話を聞くようにしているのだが、「なるほど……」と思うことは多い。
第3章:世界最先端を自分に実装する方法
本章では、最優先でチェックしなくてはならない情報とは何かが解説されている。
詳しくは本書にて確認いただきたいのだが、GOMA(Google、OpenAI、Microsoft、Anthropic)をはじめとするビックテック企業のCEOの直接メッセージ動画を自身で見てみる、というやり方は確かに有益である。
プレゼンテーションの勉強にもなる。
また、本章では書籍の選び方や学び方にも触れている。
テクノロジーを学びたいと考えた場合の、書籍選びの3つの視点や学びを深めるための4つのポイントはいずれもぜひ学んでおきたいところだ。
業種業界問わず読んでおきたい1冊、なぜなら……
本書は、以下のような項目を意識しながら読み進めた。
- 最新知識を仕入れる、新しい知識を自分に実装するためのプロのやり方を知る
- 具体的な情報源を知る
- 2035年(10年後)に思いを馳せながら、企業のあり方を探る
- テクノロジーの観点から「未来の人材育成」の絵姿を描いてみる
本書を通じて、注目分野における最新テクノロジーの動向や、メディアとの接し方、今見なくてはならない情報は何か、これから企業や組織がさらに力を発揮するためのヒント等、実に多くの知見が得られてありがたい。
なぜ、すべての人材において、最新テクノロジーの知識が必要なのか、本書を通じて腹落ち感が得られると思う。
自らが「本物の情報」を摑まえに行くことの重要性も感じておきたいポイントである。
最新テクノロジーは知的好奇心を刺激し、ワクワクさせてくれる。そう、楽しい学びは長続きしていく。
生成AIに代表される最新テクノロジーの学びに境界線はない。
どの業界の方にとっても、最新テクノロジーを学び、未来に思いを馳せることは未来の「ワクワク感」につながるはずだ。
ベテラン、若手問わず、そしてもちろん人事担当部門の皆様にもぜひ堅く考えずに、楽しく読んでいただきたいオススメの1冊である。