今週の“読まぬは損”

第185回『リスキリング大全』

菊池健司氏 日本能率協会総合研究所 MDB事業本部 エグゼクティブフェロー

菊池健司氏

読書の鬼・菊池健司氏イチオシ 今週の"読まぬは損"
1日1冊の読書を30年以上続けているというマーケティング・データ・バンク(MDB)の菊池健司氏。 「これからの人事・人材開発担当者はビジネスのトレンドを把握しておくべき」と考える菊池氏が、読者の皆様にお勧めしたい書籍を紹介します。

リスキリングが重要な理由

経済産業省「産業構造審議会経済産業政策新機軸部会」において、2040年を見据えた日本産業の在り方に関する議論が展開されている。

2024年4月現在、第3次中間整理が進んでいる状況である。日本の未来を考える上で、重要な議論が展開されているので、是非見ておいていただきたい。

第22回 産業構造審議会経済産業政策新機軸部会

第1回から振り返ってみても、この審議会の議論においては、「リスキリング」というキーワードが随所で登場する。「リスキリングに取り組む個人は、年齢に縛られず学び直しを行い続けることで、賃金が上がりやすくなる」と明記されている。

経済産業省はリスキリング(Re-skilling)を以下のように定義している。

「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」「技術革新やビジネスモデルの変化に対応するために、新しい知識やスキルを学ぶこと」。

生成AIは、既にビジネスパーソンに必要なスキルを大きく変化させている。そして産業構造の劇的な変化は、成長産業への人材の移動を促していく……。

本連載読者の皆様は、自社のそして自身の「リスキリング」にここ数年注目している方も多いであろう。そこで今回は、リスキリング関連書籍の中でもイチオシである『リスキリング大全』をご紹介したい。

著者の清水久三子氏はまさに人材育成のプロである。清水氏の書籍には前々からお世話になっており(『プロの資料作成力』『一流の学び方』等々)、いつも「著者買い」させていただいている。

今回の新作もまさにズバリのタイトルだが、時代の変化を先取りしながら成長したいビジネスパーソンや人材部門所属の方が「リスキリング」必勝法を学ぶために必読の1冊である。著者ご自身のキャリアがリスキリングの連続であり、私たちにとっても学びが大きい。

本書の構成

本書は、全8章で構成されている。

Chapter1~3が「理解・準備編」、Chapter4~6が「スキルセット変革編」、そしてChapter7~8が「マインドセット変革編」と位置付けられている。

「少し長め」のまえがき部分においては、リスキリングの全体像とステップがわかりやすく整理されている。

Chapter1:6人のリスキリング・サクセス体験記

「マーケティング⇒DXプロジェクトへの配属」「営業⇒研究⇒マーケティング」といった6名の実例をインタビュー形式で学ぶことができる。

Chapter2:リスキリングで成功する人・失敗する人

本章の最初に、リスキリング成功要因と失敗要因が描かれている。成功のキーワードが3つ書かれているので、是非本書でご確認頂きたい。

私自身、常々、ビジネスは失敗からの学びが大きいと考えているのだが、失敗の傾向と対策も丁寧に紹介されている。「インポスター症候群」や「ゆでガエル状態」のエピソードを自分に当てはめながら読ませていただいた。

Chapter3:稼ぎにつなげるアプローチを描く

稼ぐためにリスキリングを目指すことが本書のポイントだが、本章では稼ぐ力について大きく「キャリア・アダプタビリティ」「リスキリング能力」「土台となる有形資産・無形資産」という3つの観点、そして、どうリスキリングを進めていくかが解説されている。早速、「リスキリング準備シート」を自分なりに記入してみよう。

Chapter4:スキルセット変革の進め方

ここではスキルを効率よく習得するための「3つの地図」が紹介されている。「スキルマップ」「学び方マップ」「ロードマップ」、行き当たりばったりにならないためにもまずはこの地図を整理してみるといい。作り方も詳しく書かれている。それぞれ、自分でもやってみたのだが、改めて自分の思考の整理や弱点に気づくことができる。ChatGPTを活用した進め方にも言及されている。この機会に是非トライしてみよう。

Chapter5:「概念の理解」と「具体の理解」

「概念の理解」は新しい知識を書籍や研修などを活用しながら大量にインプットするための方法、「具体の理解」は実際にやってみる、人から学ぶ方法が紹介されている。

書籍の選び方や研修における学び方ついても書かれているのだが、記録を残すことは重要であり、「ラーニング・ジャーナル」をSNSやブログなどで作成することが推奨されている。考えてみれば、本連載は私にとっての「ラーニング・ジャーナル」でもある。

Chapter6:「体系の理解」と「本質の理解」

リスキリングの総仕上げとして、「体系の理解」は再現性が高いスキルが身についているレベル、「本質の理解」はオリジナルの価値を生み出せるレベルと定義付け、その内容が詳しく紹介されている。「フレームワークのオリジナリティがプロとしての個性になる」まさにその通りだと思う。

Chapter7:マインドの覚醒
Chapter8:有形・無形資産の活用と維持

最後の2章はマインドセット変革編として、リスキリングに取り組むために必要なマインドの在り方が解説されている。メンタルブロックを解除し、新バージョンのOSにアップデートしていくための方法論、誰もが悩む壁を著者がかみ砕いて説明してくれている。

絶対に必要な「リスキリング」を体系的に学べる手放せない1冊

本書は、以下のような項目を意識しながら読み進めた。

  1. 「人に教える」仕事をしている者として、「リスキリング」を改めて体系立てて理解する
  2. 未来のビジネススキルを研究するビジネスパーソンとして、本書を通じて何が重要になっていくのかを改めて考え抜く
  3. もちろん、自分が出来ていないと感じる点を埋めていく(いくつか存在する)
  4. 随所に出てくる図表をピックアップして読み返し、本書からの学びをさらに深める

あとがきでは、著者が考える学びの意味が2つ紹介されている。

「学びは不安を解消する」「学びは快感を得られる」

なるほど……人生は常に学びの連続である。ましてや世の中は劇的にこれから変化していくのだ。「学び」の世界に身を置くものとして、本書とは長い付き合いになる予感がしている。
こうして書評を書かせていただいている傍から、また読み直そう⇒実践してみよう⇒自分の新しい形を創り出そう……と思っている既に大ベテランの領域に突入している自分がいる。

そう、本書は大きなワクワク感と少しの緊張を与えてくれるのだ。本連載をお読みいただいている皆様にとって、必読書であることは間違いない。特に次世代リーダー層には強くお勧めしておきたい(もちろん全ビジネスパーソンにお勧めです)。

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