今週の“読まぬは損”

第184回『空想が実現する時代のビジネス地図』

菊池健司氏 日本能率協会総合研究所 MDB事業本部 エグゼクティブフェロー

菊池健司氏

読書の鬼・菊池健司氏イチオシ 今週の"読まぬは損"
1日1冊の読書を30年以上続けているというマーケティング・データ・バンク(MDB)の菊池健司氏。 「これからの人事・人材開発担当者はビジネスのトレンドを把握しておくべき」と考える菊池氏が、読者の皆様にお勧めしたい書籍を紹介します。

SFに描かれてきたテクノロジーが現実になる世界……

産業界を取り巻く環境は引き続き不透明であり、「先が読めない時代」などとも形容される今日この頃だが、それでもこれから確実に起こることがある。

それは「テクノロジーの進化」である。生成AIの劇的な進化やロボットによる自動化の進展は、象徴的な事例と言えるだろう。スマートフォンが登場してまだ15年、Twitter(現X)、Facebook、YouTubeが登場してまだ20年、Instagramが登場して約14年、TikTokは8年弱、ChatGPTに至っては、まだ2年も経過していない。私たちが日頃から、その恩恵を受けているこうした優れたICTツールも、歴史を刻んでいくまだ道の途中である。

書店フリークの観点で見ていても、テクノロジーの進化に関する書籍は確実に増えている印象がある。なかでも、この3年ほどの間で目立つのが、「SF発想」をビジネスに活かすための書籍である。(2024年4月以降も様々な書籍が発刊される模様……また本連載にてご紹介したい)近年では、中国のSF小説である「三体」(中国本土で2,100万部突破)は日本でもブームを巻き起こし、NetflixやWOWOWでの人気コンテンツとなっている。

「高度に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない」英国のSF作家アーサー・C・クラーク氏の言葉である。

そこで今回は、是非読者の皆様に「SF思考×ビジネス視点」を楽しく学べる素敵な1冊をご紹介したい。著者である齊田氏は、元JAXAの宇宙ビジネスコンサルタントであり、現在は独立して活躍されている。いち早く「未来のテクノロジーの世界観」を先読みしてきた方である。

“今なら”激変する未来に先回りできる!SFはフィクション(虚構)からファクト(現実)になった……本書で描かれているこのフレーズはまさにこれから起こることを私たちに教えてくれている。

本書の構成

本書は、全5章で構成されている。

本書は、全5章で構成されている。トピックごとに「想定課題」→「既に実現しているテクノロジー」→「未来の絵姿」が扉のページで書かれており、それぞれの解説がなされている。

「へー、そんなことが実現する可能性があるのか……」私自身もそう感じるポイントがいくつもあったのだが、読者の皆様のそうした声も聞こえてきそうである。ビジネスパーソンにとってありがたいのが、紹介されているテクノロジーによる未来のビジネスチャンス例が書かれていることであろう。発想を拡げるためには、読み飛ばすことなく、著者の主張と対話しながら読まれることをお勧めしておきたい。

第1章:空想が実現する時代のビジネス地図

書籍のタイトルチューンで幕を開ける。本章では10のビジネストピックが登場する。以下一例だが、すべて目を通されることをお勧めしておきたい。

「着るだけで空を飛べるジェットスーツ」「AI政治家の登場」「365日24時間人間ドック状態の実現」「バリアが人類の安全を確保」「宇宙エレベーター」……。

個人的には、「ジェットスーツ」が是非欲しい(スリル満点な気もするが……)。また既にバイタルチェックはスマートウオッチ等でかなりのことができるようになっているが、「365日24時間人間ドック状態」は健康寿命を75歳まで延ばそうとしている日本の目標から考えても、大きなビジネスチャンスがありそうだ。

第2章:病や障害から自由になる時代のビジネス地図

本章では7のビジネストピックが登場する。労働力不足で苦しむ日本を救う技術として「動物サイボーグ」の活用、人の頭に潜る「読心術社会」等、社会課題解決につながる未来のテクノロジーが登場する。

第3章:移動の概念が拡張し続ける時代のビジネス地図

本章では4のビジネストピックが登場する。個人的に最も注目したのは、4つめの「未来へのタイムマシン」である。「ドラえもん」「ドラゴンボール」「こちら葛飾区亀有公園前派出所」等でおなじみのタイムマシン、本書で紹介されているワクワクする未来の中では最もハードルが高いかもしれないが、こうした夢のテクノロジーに挑戦することに大きな意味があることも本書を通じて学べることの1つである。

第4章:地球規模のコントロールが可能になる時代のビジネス地図

この章では3つのビジネストピックが登場する。なかでも社会課題解決の観点から最も注目しておきたいのは、「意図通りに天気をコントロールできる技術」である。世界では、ハリケーンを跳ね返す技術を研究しているスタートアップ企業も注目されている。台風被害を抑えることができれば、それは大きなビジネスにつながる可能性がある。

第5章:宇宙が人類の行動範囲になる時代のビジネス地図

この章では、6つのビジネストピックが登場する。宇宙トピックの専門家である著者が注目しているテクノロジーが並ぶ。いずれも注目しておきたい内容だが、「人工冬眠」の医療への応用は注目ではないだろうか。

もはや夢物語ではない……SF思考をビジネスに活かすヒントが満載の1冊

本書は、以下のような項目を意識しながら読み進めた。

  1. 宇宙をはじめテクノロジーに詳しい著者が何に注目しているかを学ぶ
  2. このテクノロジーが実現したらどのようなチャンスが生まれるかを想起する
  3. 本書を参考に自分なりに「未来年表」をつくる
  4. 先読みするための思考法に磨きをかけていく

本書のエピローグにおいて、「空想が実現する時代についていくための思考法」が書かれている。しっかりお読みいただきたい。

  1. 最新の情報に触れる
  2. 未来志向を持つ
  3. 変化に対応できる思考を持つ
  4. 戦略思考を持つ

私自身、情報収集・活用手法を顧客に研修等で教える講師を務めているので、この一連の流れはとてもよく理解できる。「情報を集めることはできるけど、どう読み解くのか?」という質問をよくいただくのだが、実は多くのビジネスパーソンが集める段階で躓いていることも多い(情報過多で何が必要か判断できない、埋もれてしまう等)。著者の「空想が実現する時代の情報収集」の項も是非自らのメソッドに取り入れていただきたい。

“「ドラえもん」の「のび太」のように生きるのだ。”
これは本書の最後に出てくるフレーズである。

職業・職種関係なく、最新テクノロジーを知ることが未来の成長につながる時代は既に到来している。本書を参考に「空想実現の時代」を生き抜く術を是非とも学んでいきたい。

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