菊池健司氏
- 読書の鬼・菊池健司氏イチオシ 今週の"読まぬは損"
- 1日1冊の読書を30年以上続けているというマーケティング・データ・バンク(MDB)の菊池健司氏。 「これからの人事・人材開発担当者はビジネスのトレンドを把握しておくべき」と考える菊池氏が、読者の皆様にお勧めしたい書籍を紹介します。
書店を愛するイチ書評家として
出版科学研究所の調査によれば、2024年度における日本の書店数は10,417である。
約20年の歴史において、ほぼ半減している(2003年度は20,880)。
街中を歩いていても、「ああこの本屋さん、閉店してしまうのか…残念だな…でもこれも時代の流れかな」と寂しく感じる光景によく出くわす。
文化庁は「国語に関する世論調査」を毎年実施しているが、5年に1回の頻度で読書習慣に関する調査も実施している。
最新となる令和5年度の結果において、「1か月に1冊も本を読まない」方の比率は62.6%となっている。ちなみに前回平成30年度の調査では、47.3%だった。
(※電子書籍は含むが、漫画・雑誌は除く)
生成AI時代においては、こうした流れはさらに加速していくのだろう。
一方で、イチ書評家としては、「本を読む」ことに新たな価値が生まれることに期待していたりする。
毎週、本屋に通い、店頭の平積み書籍の並びから「今の時代の不安感」を読み解くというルーティンはこれからも行っていきたい。
そして、書籍は段々高級品化しているが、それでも自己投資の一環として、諸々やりくりしながら買い続けていきたいと考えている。
今回ご紹介する1冊は書店の未来に思いを馳せるうえでぜひ読んでおきたい1冊である。
タイトルは『書店を守れ!』。
著者は、ご存じ直木賞作家である今村翔吾氏である。
自らも書店の経営者である今村氏による「書店の未来」を考察するうえでの論考は、当然のことながら興味深い内容となっている。
本書の構成
本書は全5章で展開されている。
第一章:書店を経営してみたら……
日本の書店が置かれている苦境の共有にはじまり、自らも3つの書店を経営する今村氏の書店経営者になられた経緯や思わず「えっ」と言葉が出てしまうような苦労話、ここだけの話が展開される。
ちなみに、「小説創作の秘訣」も本章で登場するので、ぜひご確認いただきたい。
第二章:作家になるまで
本章では、「今村氏と本」の歴史について、幼少時からのエピソードが展開される。
「読書習慣がある人は、ここが強い」のパートを読んでいて、ついつい「即効性」を求めてしまう自分の思考を今からでも修正しなければと深く考えさせられた。
直木賞受賞のエピソード部分も、今村氏の書に対する熱い思いが伝わってくる。
本書の執筆理由については、本章で明らかにされている。
第三章:書店を守るには
タイトル通り、本書のハイライトともいうべき章であろう。
「取次」を取り巻く課題、書店を取り巻く本質的な課題、そして、それに対する今村氏の論考が展開されている。
本章で提案されている「全国書店連合による製作委員会」、ハードルはあれど、素敵なビジネスアイデアだと思う。
第四章:新ビジネスの立ち上げ
2024年に東京・神保町で立ち上げたシェア型書店「ほんまる」の話題が登場する。
シェア型書店については、本書で解説されているので詳しくはご確認いただきたいのだが、端的には書店の「棚貸し」ビジネスである。
アートディレクターである佐藤可士和氏に協力を仰いだ際のエピソードなど、なるほどという話が矢継ぎ早に登場する。
「町の書店×シェア型書店」ビジネスに対する今村氏の思いを感じ取ることができる。
ちなみに、今岐阜県からほんまる出店のオファーが届いているとのこと、今後の展開にも注目である。
本章では、「書店×図書館」「本の甲子園」等の話題も展開されている。
業界を盛り上げるための今村氏の取組みを詳しく学ぶことができる。
第五章:書店のこれから
未来への提言の章である。
確度の高い見通しとして、書店の二極化(最大手と個人書店の二極化)はいっそう進行していくと予測されている。
書籍経営の課題を示しながら、生き残る書店の条件や厳しい見通しも提言してくださっているので、ぜひ、それぞれの視点でお読みいただきたい(詳しくは本書にて)。
本章で登場する「書店は本当に守られなくてはならないのか」という問題意識に立ち返ってみると、私自身も心のざわめきを押さえられないというのが正直な思いである。
書店の未来、出版ビジネスの未来に少しでも関心をお持ちであれば
ぜひお読みいただきたい論考の数々
本書は、以下のような項目を意識しながら読み進めた。
- 本を愛するイチビジネスパーソンとして、書店の未来に思いを馳せる
- 今村氏が今後チャレンジしていかれる世界感を学ぶ
- 書店、出版業界の新ビジネスの可能性を探る
- 本が届けてくれる「価値」を自分なりに再認識する
それにしても、今村氏の書店業界への愛を感じる、いろいろと考えさせられる1冊である。
本書の最後において、自らも著名作家であり、そして書店経営者でもある今村氏の以下のような思いが書かれている。
「私はあきらめているわけではありません。それどころか、本気でこの業界を変えてやろうと思っている」
「本の世界に恩返しをしたい」。
私も「書籍」が人生を変えてくれたと思っているイチビジネスパーソンとして、書店ビジネスのこれからに期待している。
昨日出向いた馴染みの書店では、子供たちがうれしそうに、親御さんに買ってもらったであろう書籍を握りしめていた。
私も「あっ、この著者の方、新刊を出したんだ。発行日を見ると、もしかしたら先行販売かな。これも出会いだなあ……」などと頭の中でブツブツ言いながら、会計に向かう。
そしていつも通り、関心の薄い(あまり関心のない)コーナーにも出向いて、自分の「食わず嫌い」をなくすべく、棚にある書籍を興味深く眺める。
実は最近の至福の時間だったりする。
いつも思う。自分の世界観を拡げるためにも、書店は最高の存在だ……
ぜひ、「ほんまる」にも行ってみよう。
今回ご紹介した今村氏の書籍をじっくりとお読みいただき、そして書店に繰り出していただきたい。
きっと皆様の思いと書店の棚が交錯するポイントが見つかるはずだ。

