今週の“読まぬは損”

第181回『M&A年鑑2024』

菊池健司氏 日本能率協会総合研究所 MDB事業本部 エグゼクティブフェロー

菊池健司氏

読書の鬼・菊池健司氏イチオシ 今週の"読まぬは損"
1日1冊の読書を30年以上続けているというマーケティング・データ・バンク(MDB)の菊池健司氏。 「これからの人事・人材開発担当者はビジネスのトレンドを把握しておくべき」と考える菊池氏が、読者の皆様にお勧めしたい書籍を紹介します。

M&A情報を知ることが未来のビジネス探索につながる

読者の皆様も、新聞や様々な経済情報ソースにおいて、企業間の業務提携や資本提携、合併・買収に関するニュースをご覧になられることが多いであろう。

これは、いわゆるM&A(Mergers and Acquisitions)情報と呼ばれ、未来のビジネスシーンを予見する上で、非常に重要な情報である。

「あの会社とあの会社が合併……業界の競争が一段と厳しくなりそうだな」
「あの会社とあの会社が業務提携…ふむふむ、一体何を仕掛けるつもりであろうか」
「あの大企業とあのスタートアップが連携……なるほど、世の流れをこういうふうに読んでいるのか」
「えっ、一見すると全然違う業界なのに、なぜ業務提携に踏み切ったのだろう?なるほどこういう共通項があるのか……」

私自身、一時期金融機関にいたことも影響しているのだが、こうしたニュースが自然と目に飛び込んでくる。

こうした情報を見つけた際には、できるだけ、「これからビジネスシーンはどう変化していくのだろう」ということを考えるよう、自分に課している。

M&A情報の有用性は、日本の主要M&A仲介機関や金融機関が発信している情報はもちろん、世界を代表するメディアやコンサルティングファームが積極的に各種レポートを刊行していることからも明らかであろう。

これからのビジネスパーソンは、未来に思いを馳せるためにも、M&A情報を積極的に集めていくべきだと思っている。未来は誰にもわからない……その通りだが、予兆を知り、予見することはできる。考え抜くことはできる。「これから何が起こるのか……」を考える上で、M&A関連情報が有用な情報であることは間違いない。

そこで今回は、多くのビジネスパーソンに“未来のために是非、お読みいただきたい年鑑本をご紹介したい。その名も『M&A年鑑2024』。M&A仲介を行う株式会社ストライクが運営する日本最大級のM&A Onlineによる情報をベースに書籍が構成されている。

このサイトも定期的に見ておきたい。きっと新たなそして意外な発見がある。

本書の構成

本書は、M&A Online黒岡編集長による「2023年の日本のM&Aの振り返り」からスタートする。

「データで総括する2023年のM&A」のコーナーでは、2023年M&A金額上位10傑をはじめとして、日本のM&Aトレンドを読み解くうえで見ておきたい⒓のデータが示されている。2023年はリーマンショック前に2007年以来、16年ぶりに年間1000件の大台を超えた。これは何を意味するのか……。私は「業界再編時代」の号砲だと見ている。サービス業のM&Aが増加しているのは、本書でもコメントが出てくるが、サービス業の枠の拡がり、新たな業界の登場が拍車をかけている。

次のコーナーでは、インタビューが2編展開されている。誰にインタビューしているのか、は非常に重要である。今回の2024年版では、自由民主党新しい資本主義実行本部幹事長である平将明衆議院議員とジャパネットホールディングス髙田旭人社長のM&A観を学ぶことができる。

そして、「M&A主要業界動向2023」では製造業、運輸業等6業界にフォーカスを当て、コンパクトにトレンドをまとめてくれている。なぜこの6業界なのかを考えながら、読んでいくといいと思う。

本書のポイントはやはり、170ページ以上に渡り掲載されている「2023年日本の上場企業 M&Aデータ」であろう。全網羅と書かれている通り、2023年1~12月のM&A案件一覧が月ごとにまとまっている。言うまでもなく、読み応え満載である。自分の関心が薄い業界も含めて、まずはお目通しいただきたい。必ずや、目に留まる記事が出てくると思うので、見つけたら、経済ニュースサイトや各社のIR情報、企業によってはアナリストコメントなども参照しながら、さらに深堀りしていかれることをお勧めしておく。

M&A情報の有用性が学べる是非毎年読んでおきたい定番の1冊

本書は、以下のような項目を意識しながら読み進めた。

  1. 日本のM&Aトレンドに関する自分の知識の不足を補う
  2. 2023年版と比較して変化を読みとく
  3. M&A案件一覧を参考に、これから激動の時代を迎える業界を予見する
  4. 仕掛けている企業をM&Aの観点からピックアップしていく

本連載でも度々紹介してきた『会社四季報業界地図』(東洋経済新報社)、『日経業界地図』(日本経済新聞出版)のように毎年ビジネスパーソンが見ておきたい「年鑑本」がいくつか存在するのだが、今回ご紹介している『M&A年鑑』も是非そこに加えていただきたい。

時に見慣れない用語も出てくると思うが、「用語集」一覧のページもあるので、参考にしていただけると思う。

これからのビジネスパーソンの必須知識である「M&A情報」。まずは本書から学んでいくと理解しやすい。

次世代リーダー研修で「M&A」の知識習得や事例研究を行うことも、もはや必須である。

応用編を学びたい方には、以下の書籍も併せてお勧めしておく。『ゴールドマン・サックスM&A戦記 伝説のアドバイザーが見た企業再編の舞台裏』(服部暢達著/日経BP)

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