今週の“読まぬは損”

第178回『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか』

菊池健司氏 日本能率協会総合研究所 MDB事業本部 エグゼクティブフェロー

菊池健司氏

読書の鬼・菊池健司氏イチオシ 今週の"読まぬは損"
1日1冊の読書を30年以上続けているというマーケティング・データ・バンク(MDB)の菊池健司氏。 「これからの人事・人材開発担当者はビジネスのトレンドを把握しておくべき」と考える菊池氏が、読者の皆様にお勧めしたい書籍を紹介します。

世界競争力ランキングNo.1国家の働き方とは……

IMD世界競争力センター(World Competitiveness Center)が毎年公表している世界競争力ランキングには常に注目している。

本ランキングはその名の通り、国の規模感に関わらず、国際競争力を示す貴重なデータであり、1989年以降、35年に渡り興味深い結果を届けてくれている。

164もの統計データと、6400人の世界の上級経営陣から寄せられた92の質問に対する回答をもとに、「経済パフォーマンス」「政府の効率性」「ビジネスの効率性」「インフラ」の4つの因子に整理して、競争力の順位を決めている。相当、本格的な調査データである。

2023年の調査結果によれば、我らが日本は本ランキングにおいて、調査対象の64カ国中、過去最低の35位であった……。
国としての魅力を高めるためには、こうしたランキングで順位を落としている場合ではなく、未来のためにも国力を高めていく必要がある(もちろん国もそのように考えており、度々国家戦略においても本指標が登場する)。

さて今回、2023年第1位に輝いたのは北欧のデンマークである(前年も第1位)。北欧といえば、様々な国際ランキングデータにおいて、常に上位を独占しているのだが、とりわけ、デンマークの躍進ぶりには目を見張るものがある。本連載の読者の皆様の中には、前々から北欧企業の動向を注視していた方も多いかもしれない。

そこで今回ご紹介するのは、デンマーク人の夫とデンマークで暮らす日本人デンマーク研究家である針貝有佳氏の注目の新刊である。

やはり実体験・実生活に基づいた知見に敵うものはない。読みどころ満載の新書である。

本書の構成

本書は全4章で構成されている。

第1章:なぜ今、北欧のデンマークが世界から注目されるのか?

著者は気楽にパラっと一読を……と書いてくださっているが、オープニングから大切な章だと思う。前述の国際競争力ランキングのデータも引用しながら、実際に同地で暮らす著者ならではの論考が展開される。

時代をリードする「先見の明」「変化する力」そして「プライベートを尊重する力」がデンマーク人の強みである。学ぶべき点が多いと改めて感じる。

第2章:真の「タイパ」―人生を存分に楽しむ「限りある時間」の創り方

仕事を夕方4時に終了し、フリータイムを楽しむ……そんなデンマーク人の秘訣が読み解ける。

タイパを発揮するためのポイントは実に36個も紹介されている。(タイパ研究フリークの私としては堪えられない内容だったりする)全て一覧でご紹介したい衝動に駆られる。

例えば、「組織の意思決定プロセス」に関わる人が多すぎる……日本の多くのビジネスパーソンにとっても耳が痛い話もあるが、それこそが学びである。

もちろんビジネスタイムの使い方は重要だが、タイパのためには「休み方」「頭のリセットの仕方」が重要だということを改めて感じる。

第3章:生産性を生む「人間関係」―信頼ベースで任せる、任される

著者が本書の肝と位置づけているのが本章である。

ここでも、私たちは多くの示唆を得ることになるのだが、本章に登場するポイントの数々は、日本企業の管理職必読だと思う。

最初に登場する「石橋を造りながら渡る」のエピソードからデンマークの強みを感じる。「とにかくやってみる」ことがいかに重要なことか。常にそうありたいものだ。

そして「失敗」に寛容なスタンス。このスタンスが「チャレンジ」を生む。部下がベストだと思うならトライしてみる。

「もし上手くいかなかったら報告してほしい。そのときは一緒に改善策を話し合おう」上司がこういうスタンスであれば、部下も成長できる。

日本の職場でも一部の企業ではメソッド化しているが、「なぜ」「何のために」を問い直すことで無意味なタスクを減らせるという考え方、上司の指示に対する部下からの疑問は大歓迎。

なるほど、あくまで本書で紹介されている数々のポイントの一例だが、これからの上司のあり方を考える上で参考になること間違いない。

第4章:国際競争力を育む社会の「仕組み」―転職前提のキャリア形成

仕事に対するスタンス、人生に関する価値観、税金に対するスタンス、この章もなるほどポイント満載なのだが、本書で度々登場するテイク・バック・タイム社のペニーレ氏のコメントをここでは紹介しておきたい。

「人生で一番大事なことは、他人に貢献できる自分であることだと思う」

ちなみにデンマークでは、数年ごとの転職がスタンダードになる時代が間近に迫っているとのこと(現在の年間離職率は30%)。

既に終身雇用の時代は終焉を迎えているが……日本はこれからどうなっていくのだろうか…

デンマーク流の仕事術そして生き方が学べる必読書

本書は、以下のような項目を意識しながら読み進めた。

  1. 世界でも有数の競争力を有するデンマーク人の仕事術を学ぶ
  2. 世界でも有数の生産性を誇るデンマーク人のライフスタイルに学ぶ
  3. 日本企業のマネジャーが参考にすべきポイントを探る
  4. デンマークの国力の強さの源泉を探る

既に注目書として各所で紹介されている本書だが、未来が読みにくい今の時代において、非常にバリューの高い1冊である。

本書巻末の「デンマーク人から学ぶ『働き方のコツ』」リストも収録されている。

本書で記されているポイントを一覧にまとめ、少しずつでも取り入れていかれることをお勧めしておきたい(私も早速一覧表を作ってみた)。

ちなみに、針貝氏は私が毎週出演しているラジオNIKKEI「ソウミラ~相対的未来情報発信番組」にも出演頂いたことがあるので、よければYouTubeでご覧いただきたい。

実際に直接お話を伺っていて、本書の発刊を楽しみにしていた。本連載フリークの人事部門の方はもちろん、マネジャー研修、次世代リーダー研修等における必読書としてもお勧めしておきたい。

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