菊池健司氏
- 読書の鬼・菊池健司氏イチオシ 今週の"読まぬは損"
- 1日1冊の読書を30年以上続けているというマーケティング・データ・バンク(MDB)の菊池健司氏。 「これからの人事・人材開発担当者はビジネスのトレンドを把握しておくべき」と考える菊池氏が、読者の皆様にお勧めしたい書籍を紹介します。
これからのビジネスパーソンに必要不可欠な空想力
経済産業省が産業構造審議会新機軸部会において、以下レポートを公表している。
「国内投資拡大・イノベーション加速・所得向上に向けたグローバル企業の経営について」(2023年1月)
全体的に興味深い内容なので、よろしければ是非ご覧いただきたいのだが、とりわけ私が注目したのは、P.35「②イノベーション:経営者ヒアリングの声」である。たとえば、一番初めに機械メーカーの経営者の声が記載されている。このような感じである。
「研究開発部門に常に言っているが、最近は答えの分かっている、結果の出そうなこと、3~5年先しかみてないことばかりな印象。本当にイノベーション起こすならもっとアホになって、無謀なものにも挑む必要」
企業研修講師を担当している立場で、近年、人材部門の皆様からよく聞くのが、「皆このままで何とかなると思っている。社員の視野を拡げて視点を高めていきたい、発想力を高めて欲しい。そして健全な危機感を醸成したいと考えている。どうしたらよいのだろうか」という話である。
1980年代には、製造業の急成長や高い学習意欲、日本的経営等が評価され、 “ジャパンアズNo.1”とよばれ、海外からも高評価を得ていた日本。
もちろん、今現在も世界上位国であることに変わりはなく、引き続き、今でも世界初の技術を生み出す企業も多く、世界から相応に一目置かれている日本企業。
「持っている力」はかつてとさほど変わらないという話もあるのだが、1つ気がかりな要素といえば「なるほど、そう来たか!」という驚きの発想の不足のような気がしてならない。
ゆえに、前述の経産省の新機軸部会では、敢えて「新機軸」という言葉を使いながら、ビジネスシーンを鼓舞しているのだろう。
皆様はどうお感じになるであろう。
新たな発想をするためには、発想の起点を“遠くに飛ばす力”とでも言おうか、「妄想」や「空想」の力が間違いなく不可欠である。
そんなことを考えながら、書店で見かけた瞬間に相思相愛となった1冊を今回はご紹介したい。
その名も、『ビジネスと空想 空想からとんでもないアイデアを生みだす思考法』。著者である田丸雅智氏は「ショートショート」とよばれる短くて不思議な物語に特化した小説家だが、企業向けに「ショートショート発想法」というワークショップを実施して、好評を博している。
私自身、短い小説を今書いて欲しいと言われても、正直全く書ける自信がない。それでも、本書を読んでいると「自分にもできるかもしれない」と勇気が湧いてくるから不思議である。自分自身、未来洞察というテーマを扱うことも多いので、様々な可能性を感じることができた。
本書の構成
本書は全6章で構成されている。
第1章:誰にでも空想する力がある
おそらく「空想力」と言われても自分にはなあ……、と感じる方もいらっしゃるであろう。「空想や妄想は誰でも行っていいものであり、できるもの」と著者が説いている通り、まずは一歩踏み出すために大切な章である。著者の歩んできた道も振り返りながら、読み進めていきたい。
第2章:プロの小説家は、いかにして空想やアイデアを生みだしているのか?
ここではビジネスパーソンも大いに参考にしていただきたいアイデア発想法が展開される。ヒントはどこに転がっているかわからない、だからこそさまざまな経験(読書であれ、旅行であれ、料理であれ……)が重要だと改めて感じる。「今を思い出化する意識」という考え方もユニークだ。
第3章:【ワークショップ】「ショートショート発想法」 ~執筆パート~
第4章:【ワークショップ】「ショートショート発想法」 ~読み解きパート~
では、章のタイトル通り、著者が実際に行っているワークショップの重要ポイントが紹介されている。
第3章の最初に出てくる、例1のタイヤ貯金、例2のもふもふクリームの2つの題材において、超ショートショートの作品のイメージができる(詳しくは本書にて……)。
随所でワークシートが出てくるので、やることのイメージがわかりやすい。もちろん具体的にショートショートのつくり方も解説されている。さあ、「不思議な言葉」をつくってみよう。
第4章では、いよいよビジネスシーンで活用できそうなアイデアを探るパートとなる。前述のタイヤ貯金を題材にどうアイデア発想を展開していくかが詳しく書かれている。
「なるほど!」が連続していく章である。本章をじっくり読みながら、そして自分のテーマに当てはめながら、応用して考えてみたい。
第5章:ショートショートをさらに活用するために
応答編の章となるが、富士通デザインセンターでの事例がわかりやすい。終盤で登場する「類似ビジュアル発想法」「トラブル発想法」「違和感発想法」はタイトルからしてユニークな発想法で早速試してみたい。
そして、第6章【特別対談】:全員に反対されるアイデアから、イノベーションは生まれる 田丸雅智×入山章栄
最終章では、早稲田大学大学院教授の入山先生との豪華対談が掲載されている。もちろん必読である。
これからのビジネスパーソンに必要不可欠な「空想力」
本書は、以下のような項目を意識しながら読み進めた。
- 「ショートショート」の基本的な考え方を理解する
- 小説は自分には書けないというバイアスをとにかく外す
- 実際に自分でショートショートを作成してみる
- 自分が長年に渡り培ってきた未来を考えるための発想にさらにこの手法を加えてみる
本書を読んでいて、特に印象に残ったフレーズがある。
「大人は常識やルールや思いこみのヘルメットをつけていることが多く、そのために頭が固く見える」
「荒唐無稽な物語の中にこそ、未来を切り拓くヒントがある」
不透明な時代だからこそ、頭を柔らかくして考えていく必要がある。
私もその通りだと思う。
自分の隠れた才能を見出すためにも、ショートショートによるアイデア発想は有益な手法だ。未来戦略や新規事業、新商品戦略を担う方はもちろん、人事部門の皆様をはじめ全ビジネスパーソンにお勧めする「未来を考える」ための1冊である。
本連載109回でご紹介した『妄想する頭 思考する手 想像を超えるアイデアのつくり方』(暦本純一著)と併せて是非お読みいただきたい。