菊池健司氏
- 読書の鬼・菊池健司氏イチオシ 今週の"読まぬは損"
- 1日1冊の読書を30年以上続けているというマーケティング・データ・バンク(MDB)の菊池健司氏。 「これからの人事・人材開発担当者はビジネスのトレンドを把握しておくべき」と考える菊池氏が、読者の皆様にお勧めしたい書籍を紹介します。
長い目で未来を考えることの重要性
ここ数年、企業研修の一環として、「未来について考える」研修の講師業務を担当させていただく機会が増えている。今の不透明な時代感のなかでも、様々なチャンスを見出そうとしている企業の皆様の熱意を強く感じる。
未来に起こることを想起しながら、自分たちのお客様や業界を取り巻く未来がどう変化していくかを、一度立ち止まって、異なる部署の方々と意見交換を行う。実際に講師を担当していて、今は「一度立ち止まって、中長期の視点で未来を見据え、これから何をすべきかを考えてみる」ことが重要だと思えてならない。
数年前には予見することが難しかった出来事が現実のものとなり、私たちは今の時代を生きるものとしてその光景を目の当たりにしてきた。
・2020年の新型コロナ発生によるシャットイン経済への突入
→2023年5月にはいわゆる5類への移行が決定しているので、人の動きはより盛んになり、苦しかった業界に徐々に勝機が訪れる。物価高は心配な話題だが、それでも「活気の復活」が2023年以降のキーワードとなる。
・ウクライナ情勢をはじめとする世界の激震
→防衛予算アップの国会論戦を見てもわかる通り、日本にも様々な影響がある。自衛は重要だと思うが、平和な時代が一日も早く訪れることを心から願っている(私自身、2023年は地政学をしっかり学ぶことを1つの目標に掲げている)
これから果たして何が起こるのだろうか……。最近は不安な話題が多いことは正直否めないが、時計の針は確実に進んでいく。
苦しい時代だからこそ、将来起こることを想起しながら、打ち手を考え、道を切り拓き、いかに楽しんでいくかを考えていきたい。
世の中には想起が難しい未来もあれば、確実に起こることがすでに分かっている未来もある。一例だが、日本において確実に起こるのは、「人口減少」であり、「数々のビジネスのデジタル化」もその筆頭格であろう。
少し長い目で未来を考えるうえで、是非皆様にお読みいただきたい読み応え満載の新書を、前号(河合雅司氏著『未来の年表 業界大変化 瀬戸際の日本で起こること』)に引き続き、今回もご紹介したい。
そのタイトルは『2040年の日本』。2040年頃に起こることを想起しながら、2035年までに何をする、2030年までに何をする、2025年までに何をする、と考えていくバックキャスト的思考はやはり重要である。
野口悠紀雄先生の著書には、自分の人生の歴史の中でも至る所でお世話になっている。
本書の構成
本書は全9章で構成されている。
第1章:1%成長できるかどうかが、日本の未来を決める
確かに2%以上の経済成長を前提に日本の将来を組み立てることには無理があると私も思う。「労働増大的技術進歩」は重要なキーワードである。
第2章:未来の世界で日本の地位はどうなるか
中国がいずれはアメリカを抜いて世界一の経済大国になり、日本と新興国の豊かさの差が縮まる。個人的には、様々な国際ランキングデータで日本の地位が下がっているケースが多いことが非常に気になる(特にIMD「世界デジタル競争力ランキング」)。
第3章:増大する医療・介護需要に対処できるか
第4章:医療・介護技術は、ここまで進歩する
3章、4章は医療/介護にフォーカスを当てている。要介護人口が増加し、医療・福祉分野で必要な就業者が2040年に約1,000万人(10人に1人!)。確かに産業構造が激変する。
医療・介護技術の劇的な進化と医療×メタバースに関する解説が興味深い。 今、世界の富裕層が最も注目しているのは「長寿関連技術」である。
第5章:メタバースと無人企業はどこまで広がるか
本章を読むと、メタバースそして無人企業DAOの可能性を大きく感じることができる。メタバースに対する注目度には業界による温度差を感じているのだが、これから起こる未来において、メタバースはやはり重要な「ビジネス空間」であると私も思う。
第6章:自動運転とEVで生活は大きく変わる
最近も中国の大手EVメーカーの日本参入が話題となっている。世界の潮流を考えると日本のEV化率はまだわずかだが、今後ドライブかかかっていくと思う。自動運転に対する先生の見解にも是非目を通していただきたい。自動運転は大きく世の中を変えるトリガーとなり得る。
第7章:再生可能エネルギーで脱炭素を実現できるか
成り行きシナリオのままだと、エネルギー不足は確定の未来である。世界も日本も2050年カーボンニュートラルを目指しているが、簡単ではない。エネルギー問題の課題に切り込んだ先生の試算をなるほどと思いながら拝読させていただいた。
第8章:核融合発電、量子コンピュータの未来
ここでは未来の注目技術に関する解説がなされている。特に量子技術には私も注目している。
第9章:未来に向けて、人材育成が急務
企業の人材部門の方はもとより、大学の関係者にも是非お読みいただきたい章である。
それにしても、新書でこれだけの論考に接することができるのはありがたいことである。
必読の1冊
本書は、以下のような項目を意識しながら読み進めた。
- 2040年を意識しながら、野口先生がどのような未来感を意識しておられるのかをまずは大きく把握する
- 私自身が描いている未来像を踏まえ、章ごとに本と対話する
- 本書に書かれているテーマがなぜ選定されているのか、を意識しながら再読する
- 明るい未来を描くためのヒントを本書から見出す
終章に、野口先生が1968年に共著で書かれた『21世紀の日本』(東洋経済新報社)の話題が出てくる(是非、今からでも読んでみたい)。私が1歳の頃の著書である。
もうこの当時から、未来学ブームが起こっていたとのこと。今も未来構想や未来洞察はブームだと思うのだが、その歴史は長い。
当時と今の最大の違いは「黄金時代」「明るい未来」を描ける環境か否かという点だと私も思う。ただ、先生も言われている通り、決してあきらめてはいけない。
デジタル化が劇的に進む時代は、その便利さを享受しながら、豊かなで幸せな生活を人々が模索するようになる。
「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の復活は厳しいとしても、まだまだできることはたくさんありそうだと本書から教えていただいた。
日本ならではの明るい未来……そこに向けて少しでもビジネスアイデアを出していけるよう考え抜かねばと本書に背中を押していただいた。
「未来を見据えて、これからの取組みを考える」ために、多くのビジネスパーソンに読んでいただきたい1冊である。