第6回(最終回)
西田幾多郎の「自覚」 坪谷邦生氏 株式会社壺中天 代表取締役/壺中人事塾 塾長
品川皓亮氏 株式会社COTEN歴史調査チーム/「日本一たのしい哲学ラジオ」パーソナリティ/元弁護士
坪谷邦生氏
「人を生かして事をなす」ための思考のフレームワークを人事・哲学の専門家である坪谷邦生氏と品川皓亮氏に伺う本連載。
不透明で正解のない時代、二者択一を迫られ、悩むことも多い人事パーソン。
最終回でひもとくのは、日本初の哲学者・西田幾多郎の「自覚」だ。
矛盾を孕みながら揺れ動く組織の中心で、人事はどんな「構え」をもち、どう行動すればいいのだろうか――。
[取材・文]=西川敦子 [写真]=坪谷邦生氏、品川皓亮氏提供
自覚① 経験がつくる「私」
―― 西田幾多郎(1870~1945年:以下、西田)は日本で初めの哲学者と言われています。
坪谷:
そうですね。西田は西洋哲学の伝統を踏まえて東洋の知を統合した独自の哲学を確立して日本の哲学を開きました。仏教学者で禅僧の鈴木大拙は幼馴染です。
1947年、『西田幾多郎全集』(岩波書店)が刊行されたときは、出版社の前で若者たちが行列をつくり、徹夜で発売を待ったそうです。当時の人々にとって、西田哲学は勇気と希望の源泉だったのでしょう。
西田は明治3年、つまり明治維新の直後に生まれ、昭和20年6月7日と終戦直前に亡くなっています。激動の時代を生きた当時の日本人は「自分たちのよりどころはどこにあるのか」という問いを抱え続けていたのでは。ひとつの答えを示してくれたのが西田だったのだと思います。
品川:
西田は仏教など東洋独特の感覚を、西洋哲学の論理にのっとって説明しようと試みました。明治維新後、西洋の思想哲学が日本に持ち込まれるなか、彼は深刻な危機感を抱いたのではないでしょうか。
輸入された思想だけに頼っていれば、日本人が大切にしてきた精神は失われてしまう。とはいえ仏教などの東洋哲学だけでは、グローバル化していく世界と対峙することは難しい。仏教は人間の意識を追求するものではあっても、世界のありさまを論理的に説明してはいないからです。
これからは日本人も自らの足で立ち、自分たちの価値観を発信しなければいけない―― 東洋思想と西洋哲学を統合的に捉え直して日本独自の哲学体系を構築するために、西田は悩み抜いたのだと思います。
西田が感じた危機は、現代日本人が直面している危機でもあります。いままでは欧米の思想を取り入れ、キャッチアップしていけばよかった。ところが2026年のいま、民主主義や資本主義、自由貿易を体現していると思われていたアメリカは変貌を遂げ、世界の秩序が崩壊しようとしている。AIも驚異的なスピードで進化を遂げています。
坪谷:
いかに成果を上げるかという資本主義的な価値観と、精神的な価値観のはざまで悩むビジネスパーソンも多いですよね。戦後の若者たちと同様、西田哲学に勇気と希望を見出す人も多いはずです。

