CASE1 ソフトバンク流・AI 全社浸透の設計図 「人と事業をつなぐ」人事をハブにAIカンパニーへの変革を目指す 大神田 賢翔氏 ソフトバンク 人事総務本部 人事企画統括部 人材戦略部 部長
ソフトバンクは「Activate AI for Society」を成長戦略に掲げ、約2万人(単体)の全社員が生成AI を活用できる組織づくりに取り組んでいる。
その推進役を担う人事総務本部 人事企画統括部 人材戦略部 部長の大神田賢翔氏に取り組みの勘所や人事部門が果たすべき役割について聞いた。
[取材・文]=本間 幹 [写真]=編集部
変化を「チャンス」と捉える戦略人事の出発点
“人と事業をつなぐ”と書くのが人事―― ソフトバンクの人事総務本部が長年大切にしてきた言葉である。人事は採用・育成・配置といった業務を超え、経営戦略と社員の間に立つ存在だという意味だ。
そして「AI活用という大きな変化の波が押し寄せてきても、その姿勢は変わらない」と断言するのは、人事総務本部人事企画統括部人材戦略部部長の大神田賢翔氏。
「AIという変化があったとしても、本質的なことは変わりません。会社には経営戦略や事業戦略があって、人がいる。そこをつないでいくことが人事の使命です。しかし、AIが事業や人に与えるインパクトは非常に大きい。だからこそ、人事部門は事業を深く理解して、AIがビジネスをどう変えるのかという視点をもって取り組みを進めるべきです」
同社の人事部門が「守りの人事」にとどまらず、戦略的な役割を担ってきたのは、今に始まったことではない。ソフトウェア流通から携帯通信事業、さらにPayPayなどの新領域へ事業を拡大してきたなかで、人事は常に「新領域へ人材を戦略的にシフトさせ、事業成功に貢献する」役割を求められてきた。AIシフトを図る組織内で、変革を主導することもその延長線上にある。
ただし、今回は、変化の速さと不確実性の次元が異なる。「AIでどうマネタイズしていくかという答えが出るのは、世界的にもまだこれから」(大神田氏)という状況下では、どんな人材が必要で、どんな採用・配置が有効なのか、リファレンスとなる成功事例は存在しない。
だからこそ「今まで以上に事業部門としっかり会話をするようにしている」とのこと。答えのない問いに向き合いながら、ビジネスサイド(現場)のニーズや課題と技術トレンドをマッチングさせながら施策を積み上げる―― これこそが「AIカンパニー」への転換に向けたソフトバンクの人事施策のアプローチである。
この事業部門との対話において、人事部門は単なる聞き役にとどまらない。たとえば、中途・新卒採用市場の最新トレンドといった「人事ならではの付加価値」を事業部門へ提供しているのだ。また、「地道な施策の連携こそが、組織の文化や風土の醸成につながる」という人事としての知見を還元することで相互理解を深めている。事業戦略と人材ポートフォリオの連携という人的資本経営の要請に対し、人事と事業の密な対話を通じて応えようとしているのである。
まず「守り」を固め全社を動かす
AI活用推進の具体的な取り組みは、2023年から続く「生成AI活用コンテスト」から始まった。ソフトバンクのグループ企業全社員を対象に実施するこのコンテストは、孫正義ソフトバンクグループ会長兼社長の号令を受け、人事総務本部が1週間という短期間で立ち上げたものだ。
開催回数は2026年5月時点で12回を数えるが、優秀者には毎回最高1,000万円の賞金が贈られるという。しかし、コンテストにかかるコストについて、大神田氏は「全社員がAIを使ったらどう変化するのかを考えてくれるのなら、安いくらい」と分析する。

