OPINION3 国内外100の先進事例からひもとく、AI時代における人事の役割再定義 効率化はAI活用の「入り口」にすぎない「余白」を再投資し、人と組織を生かす 吉田洋介氏 人事図書館 館長
吉田洋介氏
人事領域でAI を活用したいが、何から手をつければいいのかわからないと悩む人事担当者は多いだろう。
参考になるのが、人事図書館発起人で館長を務める吉田洋介氏が2026年5月に発表した「人事AI 活用事例レポート」だ。国内外の人事AI 活用300事例を調査し、100事例に絞り込んで分析したこのレポートから見えてきた傾向や先進事例を、吉田氏に解説してもらった。
[取材・文]=村上 敬 [写真]=吉田洋介氏提供
「人事AI活用事例レポート」をまとめた背景
吉田氏がこのレポートを作成した背景には、急速に進みつつある人事AIの社会実装がある。
「2026年1月ごろから業務に耐えうるレベルのAIエージェントが出始めて、それをどう取り込むかが経営のイシューになってきました。ただ、積極的に取り込む会社がある一方で、『何ができるかわからない』『ガイドラインが出ていないから触れない』と及び腰になっている会社も少なくない。企業のなかで使われている事例を数多く示すことで、社内の検討を前に進めてもらいたいと考えて、レポートを作成しました」
レポート作成に当たっては、まず国内外の候補300事例をピックアップ。AI活用といっても、現段階では単にツールを導入しただけだったり、使っても特に何も変わっていなかったりというケースは多く、人事として成果が出ている事例だけを集めた。
そのうえで、具体性・出典確認・成果の読み取りやすさ・再現可能性・領域バランスを基準にスコアリングして、100事例に絞り込んだ。
「300事例の成果の内訳を見ると、74%が工数削減、つまり人事業務の作業時間を短縮できたというものでした。ただ、工数の削減は一度きりだったり、改善を続けるとしてもその効果は逓減していったりするものです。大切なのは、削減した時間をどのように再投資するか。厳選した100事例の多くは、人事の工数削減にとどまらず、トップラインを上げたり新しい事業の柱をつくったりといった方向で再投資していた。そこが先進企業の共通点として見えてきたことです」
活用が進んでいるのは「問い合わせ対応」
集めた事例は、「問い合わせ対応・従業員サービス」「採用・選考支援」「タレントマネジメント・配置」「評価・1on1・マネジャー支援」「組織開発・サーベイ」「労務・従業員対応・オンボーディング」「AI人材育成・活用定着」「非エンジニア開発」の8つの領域に分類されている。なかでも成果が出ている領域が、「問い合わせ対応」と「採用・選考支援」だ。
「人事に届く問い合わせのうちの大半が、どこかに書いてあるものを直接質問されるケースです。採用・選考支援では、候補者と面接官の日程調整業務において、採用担当の約6割の時間が費やされているという話もあります。どちらも工数分析をすると最初に出てくる業務で、手をつけやすい」
実際に成果を出している事例を紹介しよう。問い合わせ対応については、IBMの「AskHR」が興味深い。社員・マネジャーが休暇、給与、福利厚生、異動手続きなどを総合受付となるAIエージェントに自然文で問い合わせると、その下に連携する各専門領域のAIエージェントが一次対応する。AIエージェントが対応するHRタスクは80を超えているという。
「例外申請や制度解釈など人間が判断すべき案件は人事担当者にエスカレーションされますが、そこまでの下調べや案内もAIが支援してくれるので、人事担当者の負担は減る。IBMは年間1,150万件の問い合わせのうち94%をこのシステムで対応しています」
吉田氏が特に評価するのは、IBMがローカルAIでこの仕組みを構築している点だ。
「人事は個人情報を扱うため、普通は自社の人事ルールやガイドラインくらいしか回答できません。しかし、ローカルAIを構築して社員情報を読み込ませておけば、『有給残日数は何日か』『家族の介護状況を踏まえるとどんな制度が使えるか』といった個別具体的な問いにも対応できます」

