OPINION2 AIと人間の強みを掛け合わせ、組織に大きなシナジーを生む AIと「人間らしさ」の補完・融合を築く人事が主導する新たな組織づくり 林 浩二氏 旭川市立大学 経済学部 教授
林 浩二氏
AIの活用が進むにつれて人々の働き方が変化すれば、人事部門も人材の捉え方を見直す必要に迫られる―。
そのような予感を抱いている人事担当者は多いだろう。
ただ、変化の予兆を感じていたとしても、AIの浸透が人事業務にどのような影響を与えるのかをクリアにイメージするのは容易ではない。
AIと人事の未来像について、旭川市立大学経済学部教授の林浩二氏に話を聞いた。
[取材・文]=村上 敬 [写真]=林 浩二氏提供
AIに代替されるか、AIと補完・融合するか
AIは、人々の働き方を変える可能性を秘めた革新的なテクノロジーである。ただ、技術革新が労働の在り方を変えるのは今回が初めてではない。原始時代の火や石器をはじめ、蒸気機関、インターネットなど、有史以来、革新的なツールが登場するたびに人々は労働の負担から解放されてきた。AIの登場も従来の延長線上にあると考えればいいのか。旭川市立大学経済学部教授の林浩二氏は次のように指摘する。
「PDCAサイクルでいえば、Do(実行)をテクノロジーが担い、浮いた時間をPlan(計画)、Check(評価)、Action(改善)に充てるというのが、人間とテクノロジーのこれまでの関係でした。しかしAIは、DoだけでなくPDCAすべてを担いうる点でこれまでのテクノロジーと性質が根本的に異なります」
AIがPDCAサイクルのすべてを担いうるとしたら、その先に考えられるシナリオは2つある。まず1つは、AIが人間を代替するシナリオだ。これは人間を労働から解放する一方で、人間を無価値な存在へと貶めてしまう危険性をはらんでいる。もう1つは、AIと人間が互いの強みを活かし合う補完的・融合的な関係を築くシナリオだ。林氏は「企業は放っておくと代替シナリオに流れてしまう」と懸念する。
「現在、多くの企業が人的資本経営を推進しています。人的資本経営は人材投資のトレンドを生み、経営者に戦略人事の重要性を再認識させた功績があります。しかし同時に、『人材は企業の利益を最大化させるための投資対象』という捉え方も広がってしまった。その文脈にのっとると、『AIが企業価値を高めてくれるなら人間は不要』という代替シナリオに寄っていくのが自然です。
人的資本経営は企業目線だけに偏るのではなく、企業価値の向上と従業員の幸せを両立させるWin-Winの関係を目指すべきです。そのためには補完シナリオへと意図的に舵を切ることが不可欠。そしてその役割を企業の中で担うのが人事部門だと考えています」
スキル観の転換―― テクニカルスキルから「人間らしさ」へ
補完シナリオを目指すなら、まずAIと人間がお互いに何を強みにしているのかを整理しておく必要がある。
一般的にAIは「情報処理の高速化」「思考支援」「業務効率化」といった領域でその力を発揮する。それに対して人間の強みは何か。林氏が重視するのが「HI(ヒューマンインテリジェンス)」だ。
「ひと言でいえば、人間らしさに根差した知性と感性を合わせたものがHIです。特に感性は、言語化・数値化が困難な領域で発揮されます。ひらたくいえば、風向きを読む力、空気を読む力と言い換えてもいい。それらとエモーショナルな要素が組み合わさった領域は、AIにもそう簡単に代替できません」
具体的なスキルでいえば、どういうことになるのか。アメリカの経営学者ロバート・カッツが1950年代に提唱した能力モデルで解説しよう。

