第47回 思い込みにとらわれず、一人ひとりが活躍できる環境の提供を 自分の生きたい人生を生きられる社会をつくりたい 黒嶋敦子氏 熊谷組 管理本部 ダイバーシティ推進部長
黒嶋敦子氏
今年1月、2026年3月期の純利益が前期比2倍の185億円になる見通しを発表した熊谷組。特筆すべきが、2015年から取り組むダイバーシティ施策である。ダイバーシティ推進部長の黒嶋敦子氏はもともと設計職として入社したが、現場経験が長く、ダイバーシティ施策に関わり始めたのは40代半ば。人事領域で新たな取り組みをしている黒嶋氏に、現在の仕事の醍醐味を聞いた。
[取材・文]=村上 敬 [写真]=中山博敬


「手に職」を求めて建築学科を選択
2015年からダイバーシティ推進に取り組んでいる熊谷組。2024年度には女性管理職が7.7倍、女性技術者2.6倍、介護休暇取得者8.4倍など目覚ましい進展を遂げている。女性技術者は166人にまで増加しているが、1990年代は数えるほどしかいなかった。もっとも、他の多くのゼネコンも同様の状況であった。そもそも建築・土木技術者を輩出する大学の関連学部も男子学生ばかりだった。
そうした環境で、同社の門戸をたたき、1992年に入社したのが管理本部ダイバーシティ推進部長の黒嶋敦子氏である。なぜ技術者になろうと考えたのか。
「父は母子家庭で、お菓子屋を営む祖母が女手一つで7人の子を育てていました。間近でその様子を見てきた経験から、父は私に『女性も手に職をつけて家族を守れるようにならなくてはダメだ』とよく話していました。一方、私は絵を描くことが好きで、理系科目も得意。自分が好きなことや得意なことの延長で“手に職”は何かと考えたときに浮かんだのが建築学科です。進学先の建築学科190人のうち女性は20人でしたが、当時は学ぶことに精一杯で、女性であることは意識していなかったですね」
建築学科の学生にとって、設計事務所は有力な就職先の1つ。黒嶋氏もいくつかの設計事務所でインターンをしたが、実際に選んだのはゼネコンの熊谷組だった。選択に影響を与えたのは、19歳のときヨーロッパをぐるりと回った研修旅行だったという。
「なかでも感激したのはイタリアの都市国家です。建築一つひとつも素晴らしいのですが、たとえばベネチアの建築が水と一体化しているように、各都市が地域の特性に合わせた構造になっていて、私もできるだけスケールの大きなものを手掛けたいなと。それなら設計事務所よりゼネコンだと考えて就活しました。ただ、当時のゼネコンは女性総合職をほぼ採用していませんでした。そのなかで女性総合職を採用していたのが熊谷組。社員寮があることも地方出身の私には大きく、お世話になることを決めました」

