OPINION2 管理職が前向きに学び続ける仕組みづくり マネジメントに対するポジティブな意識を生む「経験のデザイン」と「内省支援」 松尾 睦氏 青山学院大学 経営学部 経営学科 教授/北海道大学 名誉教授
松尾 睦氏
自律的な成長を促す仕組みとして広く知られる「経験学習」モデル。
「経験する」「内省する」「教訓を引き出す」「応用する」の4つのステップからなるサイクルを回すことで、経験から導き出した教訓を、次の挑戦に活かしていくプロセスを理論化した学習モデルだ。
管理職に求められる資質を醸成するうえでも役立つ、この学習モデルを機能させる具体策について国内における「経験学習」研究の第一人者である青山学院大学経営学部の松尾睦教授に話を聞いた。
[取材・文]=本間 幹 [写真]=松尾 睦氏提供
修羅場を与えるだけはNG 成長を促す経験のデザイン
管理職の育成において、チャレンジングな経験が、成長を促すことは広く知られている。だが、青山学院大学経営学部経営学科の松尾睦教授は、闇雲に困難な経験を与えるだけでは取り組みは不十分だと釘を刺す。
「もちろん放っておいても、よいリーダーになる人はいるでしょう。しかし、それはレアケース。世界的に著名な経営コンサルタントであるラム・チャラン氏も難度の高い仕事を任せるだけでなく、コーチをつけることを推奨していますが、私の考えも同じです」
しばしば「修羅場が人を育てる」といわれるが、実際に、現在の実力を少し上回るレベルの困難な業務や目標を意図的に割り当てるマネジメント手法を用いる企業は少なくない。しかし、成長を期待する結果、高負荷すぎる課題を与えるのは考えものだ。“適度に難しい仕事”を与え、“段階的に”経験を積ませることが重要だと松尾教授は強調する。
「人間の成長プロセスを探求する『熟達論』という研究分野では、人が成長しやすい経験は適度に難しい仕事だといわれています。適度に難しいというのは、『頑張ればできそうだな』という感覚を人に与える経験を指します」
現在の業務のレベルを100とするなら、120~130程度のレベルの業務を経験することが成長につながりやすい。それを超える負荷は「人もプロジェクトも潰してしまう」リスクをはらむ。
それでも高負荷なアサインメント(仕事の割当て)が避けられない局面はある。その際に、コーチをつけるといった工夫が求められるのだ。
「高負荷なアサインメントを行う際には、上司や組織がきちんとサポートする体制を整えることが重要。それで難易度を少し下げることができるわけです」
また、松尾教授は、組織的なサポートや研修を行う際に、フィードバックだけではなく、未来を視野に入れた「フィードフォワード」に基づくコミュニケーションの重要性にも言及。仕事の難所をあらかじめ伝えて準備させたり、現在の経験が将来どのような意味を持つのかを先に示したりすることが、学習意欲を誘引するというのだ。
「かつて、ある自動車部品メーカーの育て上手の課長から『今やっている仕事に対して意味づけをしてあげないと、いまの若い人はすぐ辞めてしまう』という話を聞いたことがあります。裏を返せば、いま任せている仕事が、将来目指しているポジションのコアスキルを磨くことにつながっていることが説明できれば、納得して仕事についてもらえるということ。取り組んでいる業務が困難なレベルでも、将来につながっていることがわかっているのと、いないのでは、モチベーションが大きく異なるのは言うまでもありません。そしてモチベーションが高まれば、経験学習の成果も当然向上します」
管理職育成は段階的かつ計画的に
加えて、松尾教授は、多くの企業で管理職育成プロセスや支援が場当たり的なことを問題視する。
「サクセッションプラン(後継者育成計画)に比べると、管理職育成計画はそこまで厳密に設計されていない印象があります。『年齢的に、そろそろ課長かな?』という理由で決められることが多いのが現状です」

