CASE.2 コーセル 人事異動で自らのスタイルを振り返る 異動と多面評価を活用し、振り返りを促して「型」をはずす
富山県に本社を置くコーセルは、電気・電子機器で使われる直流安定化電源の専業メーカー。メーカーとしての技術力向上と共に重視しているのが、組織における人間関係力。個性を大事にしながら、管理職の自己改革力と組織力を上げるために「人事異動」と「多面評価」を活用している。
● 異動の意義 自らを振り返る機会
「“人”は経営資源中、最大の財産」を標榜するコーセル。同社が人材を「人財」と表記するのも、その表れのひとつ。最大の財産である「人財」一人ひとりの個性を引き出し、それを組織力として昇華させるのに活用しているのが定期異動だ。
異動は適材適所への配置の意図のもとで行われるもの。もちろん同社でもその考えは基本にある。ただ、少し違うのは、異動を社員の行動変容に活用しようとしていることだ(図1)。
同社取締役清澤聡氏は異動の意義を「それまでやってきたことや自らのスタンスを振り返る機会だと考えています。新しい部署に移れば、そこで立ち止まって自分のことや仕事のことを振り返り、見つめ直す機会になるはず」と説明する。
中には、それまで順調にやってきた仕事から未知の仕事へ変わることに抵抗を感じる人もいるだろう。
「確かに異動当初はそうでしょう。ただ上司やメンバーが異動者を受け入れ、育てる習慣が昔からありますし、新しい役割を担う中で異動が自己成長の機会なのだと後々、本人自身が気づくことになります」(清澤氏)
同業の中でも社員の定着率が高いといわれる理由はこのあたりにもあるのかもしれない。
異動を成長の機会と捉え、それまで身につけた仕事のスタイルを振り返り、新しい組織で使える知識や技術を学ぶことを会社は期待しているのだ。つまり、異動が「型はずし」になっている。
大学新卒者の全てが理工学系学部出身の同社では、入社時は製品開発の仕事を志す。しかし、その道一筋でキャリアを終えることがコーセルでは必ずしも“是”ではない。例えば、初めは開発に配属となっても、あるタイミングで、営業や生産などの他部門を経験する。もしくは開発にいながらもクレーム対応などへの職種転換を行う。製品開発一筋だと視点がひとつに偏りがちだが、例えば営業を経験することで、顧客視点で自社の技術を見るようになるなど、仕事の捉え方の幅が広がる。
同社管理部人財開発課課長の日下善雄氏も「技術者は放っておくと自己満足に陥りがちです。それを防ぐためにも異動はいい機会だと考えています」と語る。
現在所属する人財開発課に籍を置くまでに開発、営業、管理など数回の異動を経験した大坪晴樹氏は、「開発の仕事をしていた頃は、お客様の言われるまま、納期に間に合わせることに終始していました。お客様はなぜ自分の考えを理解してくださらないのかと、不満に思っていたことさえあります。その後、営業所長に異動してお客様と直接、お話するようになってから、お客様の事情が理解できました。今の自分なら、あの時、もっといい提案ができたのにと思うことがあります。本当の意味で、業務のことがわかった気がしました」と異動の効果を振り返る。