第44回 人と人をつなぎ、巨大人事コミュニティーを主宰 介在価値を発揮しながら “闘う人事”であり続ける 石田 茂氏 ポラスグループ ポラス 人事部長/ポラテック 監査役
石田 茂氏
総合住宅会社・ポラス(ポラスグループ)に新卒で入社して以来、およそ30年にわたり人事の仕事に携わる人事部長の石田茂氏。自身が大切にしている「介在価値」を発揮しながら主宰する人事向けコミュニティーは、いまや400人ものメンバーを擁する。石田氏の活動の原点とは。また、仕事のうえで大切にしていることについて、話を聞いた。
[取材・文]=たなべ やすこ [写真]=中山博敬

新人時代のスランプを経て仕事の対象が変化
埼玉県越谷市に本社を構えるポラス(ポラスグループ)は、地域密着型の住宅会社だ。土地の仕入れから資材調達、入居後のメンテナンスまで手掛ける一貫施工体制を採用し、商圏は埼玉県を中心に、千葉県および東京都の北部や東部に住宅の供給エリアを限定する徹底ぶりで知られる。
同社で入社以来、グループの家づくりならぬ人づくりに29年間携わるのが人事部長の石田茂氏だ。
「学生のころから誰かの相談に乗ったり、飲み会やパーティーを企画して皆に喜んでもらうのが好きだったんですよね。百貨店での接客のアルバイトもすごく楽しくて。介在価値の発揮に興味があり、人が関わること、選択することに影響を与えることがしたいと思っていたので、“人生最大の買いもの”でもある家選びをお手伝いする仕事はいいかもしれないと考えました」
バブルが弾けて各社が採用を抑えるなか、ポラスは積極採用に取り組んでいた。当時は社員数1,000名に満たない会社で毎年300名近くの新卒社員が入社しており、石田氏もその1人。内定後には新卒採用チームで、今でいうインターンの形で働き始めた。営業に次いでの第二希望だったが、人事から独立した創業社長直轄の組織というだけでワクワクしたという。内定者だけで次年度向けの採用イベントを企画運営したときは、学生時代に培った“仕切り力”を発揮し、大成功だった。
「若くて活気のある組織」といえば聞こえはいい。だが、部門責任者以外は入社数年の若手先輩社員が数名在籍しているのみ。丁寧な指導やフォローが行き渡らないなか、短期集中の人海戦術で毎日慌ただしく、また失敗やトラブルの多い毎日を過ごしていた。7月までに大学新卒の採用活動はほぼ終了となるため、チームの同期23名は次々と配置転換となり、半年後には6名、1年後には3名しか残っていなかった。
そして当の本人も、入社年の年末を迎えるころには完全に燃え尽きていたという。積極的で人前に立つのが好きなうえ、人当たりがよく周りを巻き込むのがうまい新人に、会社は期待しないはずがない。次々と仕事を引き受けるうち、オーバーワークがたたり、ある日突然、頭も体も動かなくなった。抱えていたプロジェクトはどんどん取り上げられ、残るは事務所の掃除くらいだった。
「1つ下の内定者が入ってきたタイミングでしたから、自尊心はボロボロですごく惨めでした。就活イベントでは彼らを相手に意気揚々としていたヤツが、職場の隅で戦力外の扱いを受けているのですから」
自分も仕事を辞めたい、そう思う日々が続いた。しかし、葛藤を何カ月もループさせるうち、今までの自分は目立ちたい、すごいと思われたいという欲求ばかりで、仕事の動機が自分に向いていたのだと気づく。
「今辞めると言ったら、上司も先輩も表向きは引き留めるでしょう。でも内心は『お前もか』と思われるのだろうと。そうしたら今度は、悔しくなったんですよね。自分は何も介在価値を発揮できていない。辞めることはいつでもできると思ったら、ふっと肩の力が抜けて。辞めるのは周りに感謝され、惜しまれるようになってからでも遅くないと。そこで仕事の動機を自分ではなく、周囲に向けることができたんです」

