連載 調査データファイル 雇用・人事システムの構造改革 第37回 65 歳雇用延長の実現に向けて④
60歳以降の雇用延長を実施する場合、高齢者の賃金制度を見直す必要がある。これまでの属人的要素の強い「人基準」に代わり、仕事の内容とその成果に連動する「仕事基準」による賃金制度に移行すれば、賃金コストの面から見ても経済合理性を損なうことがない。「仕事基準」の賃金制度を構築する際に参考となるのが、外部労働市場の職種別賃金だ。
1. 年功賃金との決別
2004 年春闘においても、従来からのペア+定昇といった横並びの賃上げ交渉が全く盛り上がりに欠けていたのは、時代環境が年功賃金とは決別しつつあることを反映している。多くの労使は賃金改革の交渉をしており、その中身は賃金制度における年功部分を縮小ないしは撤廃し、代わって成果主義的な賃金の比重を高めようとしている。
しかしながら、成果主義賃金改革の実態を調べると、制度的には年功賃金を縮小・撤廃したとはいっても、運用実態において完全に払拭できたという企業は、きわめて稀だ。これは、形を変えて年功賃金的な要素が残存していることの表れである。
年功賃金が賃金制度として導入され、長い間に賃金構造として定着してきたが、それを一夜にして破壊し新たな賃金制度に基づく賃金構造を定着させるのは非常に難しい。社歴の浅い新興企業なら可能であろうが、歴史のある企業では至難の業である。ただし、社歴のある企業においても、60歳以降の雇用延長対象者に関しては、一挙に年功賃金から決別することができる。
公的年金や企業年金などで生活を支えることが可能な雇用延長対象者は、年功的賃金部分による下支えの必要はなく、仕事基準で処遇することが可能である。前回(5月号)でも指摘したが、雇用延長者に対する人事システムの基本戦略は、「部長経験者にふさしい仕事を探してくる」というのではなく、「この仕事ができる人を探してくる」という適職開発の考え方であり、仕事の内容とその成果に連動した「仕事基準」が基本となる。
これまでの60 歳代前半層の賃金制度は、年功賃金の下で長期にわたり勤続したため賃金水準がかなり高く、一律に大幅な賃金調整を行っていた。こうしたやり方は、元気で能力の高い高齢者のやる気まで奪うことになり、あまりうまくいかない。一律の大幅な賃金調整というやり方は、一律に賃金が底上げされていくという年功賃金の考え方の裏返しでもある。