No.08 重圧下で闘う救急医に求められる力とは? 志賀 隆氏 国際医療福祉大学 医学部 救急医学教授(代表)/ 国際医療福祉大学成田病院 救急科部長|中原 淳氏 立教大学 経営学部 教授
志賀 隆氏
人は誰しも指導者になる。これは講師やマネジャーに限った話ではない。組織で働く人であれば、一度は人を育て、チームを育む指導的役割を担う機会が訪れる。
本連載では人の成長に寄与し、豊かな成長環境を築くプロ指導者たちに、中原淳教授がインタビュー。第8回は前回に引き続き、救急専門医、指導医である志賀隆さんにお話を伺った。
[取材・文]=井上 佐保子 [写真]=山下裕之

最短での治療に向けて「余計な仕事」を取り除く
中原
救急医には、どんな専門性が求められるのでしょうか?
志賀
救急車で次々と重症患者が運び込まれる緊迫した状況で、迅速かつ適切に処置と診断を行い、最短で適切な診療科の治療につなぐのが救急医の仕事。「高プレッシャー下で闘える」ことが救急の専門性です。
中原
具体的には、どのようなお仕事をなさっているのでしょうか?
志賀
患者さんが最短コースで適切な診療、必要な手術が受けられるよう、障壁を取り除いていくような仕事です。たとえば、腹痛を訴え、異所性妊娠が疑われる女性患者が来たとします。異所性妊娠とは受精卵が子宮内膜以外に着床し、最悪の場合、卵管が破裂して出血性ショックで死亡する可能性もある病気なので、まずは妊娠反応を見るために尿を取り検査室へ送ります。1人の医師はそのまま両手で点滴を取り、別の医師は超音波で腹水を確認。腹痛があり、押すと痛くて腹水があり、かつ妊娠反応が陽性なら異所性妊娠なので、すぐに手術です。
運ばれてから5分ほどでこのような処置、診断を行い、すぐに手術室と外科医、麻酔科医を押さえ、一刻も早く手術に入れるよう、そのサポートをするという流れです。
中原
5分で!驚きです。救急では、初期診断と応急処置だけではなく、手術の段取りまで行うのですね。救急医には「プロジェクトマネジメント」の仕事の側面もありますね。
志賀
緊急度を計りながら患者さんの安定化を図る、ということはもちろん行いますが、救急だけで完結できないことも多くあります。他部門につないだところで準備や検査に手間取って治療が止まってしまうことがないようにするために、最短で治療や手術に入れるよう、余計な仕事を取り除くのも救急医の大事な仕事です。内科医や外科医だけで救急の対応をした場合、検査から診断して手術をするまで、恐らく我々の3倍以上の時間がかかってしまいます。
中原
時間を短縮するために何を省くかの判断が求められるというわけですね。救急科以外のメンバーをスムーズに巻き込むためのコミュニケーションも重要ですね。
志賀
はい。他の診療科の先生やスタッフとの関係づくりのためにも、日頃から病院内のあちこちで「ありがとう」と声をかけるようにしています。他の診療科の患者さんが救急に運ばれてくることもありますので、お互いに良好な関係を保ち、連携することが大切です。
失敗が許されないからこそアサーティブネスが大切
中原
救急現場は緊急性が高く、絶対に失敗が許されません。どのような指導をされているのですか?

