連載 HR Global Eyes 世界の人事ニッポンの人事 Vol.2 ナレッジマネジメントの要 「チューター」と「師匠」
今回は私的な話から始めることをお許し願いたい。
元々の専門は建築分野で、設計実務やフランスの研究所暮らしをした後、30年前、縁があって日系のコンサルティングファーム(JMAC)の東京本社に入った。無論「中途採用」である。業歴から研究開発マネジメント部門に所属したが、当時、具体化しつつあったフランスプロジェクトの要員でもあった。外国語で仕事をする面白さを覚えた頃だったので、フランスに戻るのはやぶさかではなかったが、工学系の仕事とは言え、経営的なコンサルティング実務では文字通り駆け出しだった。
今でも頭が下がるのは、その時の上司K氏の英断である。私の早期育成のために「チューター(個別指導員)」を複数人つけてくださったのだ。コストの専門家N氏、設計管理とプロジェクトマネジメントのベテランO氏、そして生涯の「師匠」になったS氏――今日の私があるのも、こうした先輩たちのお陰である。
こんな恩恵に浴したせいだろう。チューター制には個人的な思い入れがあって、機会を見つけては導入のお手伝いをしてきた。もちろん、人材の見取図が俯瞰できるような付き合いの長いクライアントに限られたが、グルノーブルにある重電メーカーのMG(現SE)社、ブルターニュにある農業機械のSB社、リヨンの高級婦人下着メーカーLC社など数々の機会に恵まれた。ただし私の場合、人事制度の観点からではなく、実務で困っている技術者を手助けする仕組みをつくってあげたい、という切実な思いが動機となっていた。