No.07 命を守る救急現場で救急医を育てる指導の在り方とは 志賀 隆氏 国際医療福祉大学 医学部 救急医学教授(代表)/ 国際医療福祉大学成田病院 救急科部長|中原 淳氏 立教大学 経営学部 教授

人は誰しも指導者になる。これは講師やマネジャーに限った話ではない。組織で働く人であれば、一度は人を育て、チームを育む指導的役割を担う機会が訪れる。本連載では人の成長に寄与し、豊かな成長環境を築くプロ指導者たちに、中原淳教授がインタビュー。第7回は救急専門医、指導医である志賀隆さんにお話を伺った。
[取材・文]=井上 佐保子 [写真]=山下裕之

米ドラマ『ER』を観て救急医を志す
中原
志賀先生は東京ベイ・浦安市川医療センターで救命救急センターを立ち上げられ、現在は国際医療福祉大学で研修医や学生に救急医療の指導も行われています。まずはそのキャリア、専門医になるまでのプロセスについて教えてください。
志賀
医学部に入ったばかりのころはまだ、救急医になろうとは思っていませんでした。私が卒業した千葉大医学部の場合、1年目は必修科目を勉強し、2年目から生理学、生化学、解剖学、組織学などの専門科目を学び、人体解剖をします。3年目からは病理学や薬理学を、4年目は診断学、外科学など問診や診察、手術の基礎などを学び、5年目から病院での臨床実習が始まります。6年目の前半は自分の興味のある科に入って実習をし、後半は国家試験の勉強です。
国立大では、大学病院の全講座について卒業試験があり、それに通ってから、医師国家試験を受験します。医師免許を取った後は卒後研修です。まずは、2年間の初期臨床研修で医師としての基礎を固めます。さらに後期専門研修で3~5年程度、専門分野の知識や技術を学ぶことで専門医資格を得ることができます。
中原
大学入学から10年かかるわけですね。救急医になろうと思ったきっかけは?
志賀
『ER緊急救命室』というアメリカのドラマを観まして、「こんな医師になりたい」と思ったのです。とはいえ、当時は体力に自信がなかったので、まずは内科系の総合診療に行こうと、初期研修は総合診療科が有名な東京医療センターへ行きました。
中原
総合診療と救急は領域が近いのですか?
志賀
ほぼ重なっていますが、救急の方が重症度や急性度は強いです。研修医2年目のときは2カ月間、2日に1回当直するという、今ではあり得ないようなハードな勤務をしていました。そこで救急でやっていく自信がついたので、救急医を目指すことにしました。
違和感を持っていた“昭和”な初期研修
中原
志賀先生が初期研修をなさった際の研修病院での指導はどのようなものでしたか?
志賀
それはもう……。“ザ・昭和”な感じでした。薬剤や輸液投与のために血管に太い管を入れる「中心静脈確保」という、重症患者に対して行う重要な処置があります。研修1年目、初めて入った現場で、いきなり「できて当然だろ! やれ!」と言われて、恐る恐るやりました。やはりうまくいきませんでした。もしできなかった場合、やり方を教えてもらえるわけではなく、ただ仕事を取り上げられるだけのことも多かったです。絶対にミスしないよう、自分でしっかり練習しておけ、というわけです。今、同じことを私がやったらパワハラです。