先進企業の戦略と実践事例から学ぶ 「人的資本の見える化」 正路浩平氏 日本たばこ産業 コーポレート人事部 次長|杉村元規氏 MIXI 人事本部 人事戦略部 / 人材採用部 部長
『人的資本の見える化』においては、「人材ポートフォリオの策定」「タレントマネジメントシステムの活用」「スキルマップの活用」「人事情報のステークホルダーへの開示」など、対応すべき多くの課題が存在する。
情報開示を目的化せず、真に個人と組織を成長させる経営・人材戦略の実践にあたって、何を「見える化」すればよいのだろうか。
そこで、2024年9月に開催された日本能率協会マネジメントセンター主催のセミナーより、日本たばこ産業(JT)、MIXIの取り組み事例の講演内容をダイジェストで紹介する。
[取材・文]=菊池壯太
グローバルで、グループパーパス「心の豊かさ」の提供を考える
今日は、JTグループではどのような価値体系に基づいて人的資本を捉えているか。また、経営理念や価値体系をベースに、会社のなかの人材の扱いや進化を踏まえて、現在に至る人的資本のフレームワークやどこに注力しているかについてお話しできればと思います。
まず、JTという会社の紹介です。ご承知のとおり、たばこ事業が中核の会社で、それに加えて、医薬事業、加工食品事業という3つを展開しています。
次に、人的資本につながっていく経営理念と価値体系についてご説明します(図1)。経営理念では、すべてのサービスの中心にお客様を据えています。ただし、我々のことをサポートして応援してくださる株主の方々や、一緒に汗を流している従業員、そして我々を認めて受け入れてくれている社会という4者に対して責任をしっかりと果たしていくことも重視しています。
グループパーパス「心の豊かさを、もっと。」は、2023年に社外に開示をして今の価値体系になっています。旧専売公社から事業を続けるなかで、当時から「心の豊かさ」をどのようにして社会に、そしてお客様に提供していくのかを考えていたという経緯も踏まえて、変化が激しい時代において、JTグループとしての世の中への価値提供について長い時間をかけて議論してきました。そして最終的に「心の豊かさを、もっと。」というパーパスが導き出されました。「もっと」は、心の豊かさ自体を今までのレベル以上に求めたいという思いを込めて設定しています。ただ、かなり広いパーパスになるので、各事業においてもパーパスを設定しています。それらをしっかりと事業部の皆さんが遂行していくうえでのValueとBehaviorも新たに設定しています。どのような価値観のもとに具体的な行動をとってほしいかについてもしっかりと言語化をして社員一人ひとりが前向きに動いていけるようにしています。
そんななかで、JTグループは昔からかなり「人財」にこだわりを持ち、「人」こそが競争力の源泉であるという考えをうたっています。この考えを幹としながら、諸人事制度を変更したり評価体系を変えたりしてきました。
大きな変化としては、2015年に「多様性」というワードが出てきたことです。多様性を認めるだけではなく生かすために、個人に会社が合わせていくという思考で強く進めてきました。また従業員の自立・自律の促進もこのタイミングから行っておりますし、一人ひとりが「トライ・チャレンジ」をして、積極性・主体性を持って変化を楽しんでいくことも推奨しています。
そういった流れのなかで導き出されたグループパーパスは、2022年のたばこ事業における本社機能のスイス移転に伴い、グローバルで1つのチームとして動いていこうという発想や、人事もグローバルと歩調を合わせるという意味もありました。人的資本の観点においても、日本法人としてのJTだけではなく、グローバル全体として、どういったものをJTグループらしさとして提示していくのか。そんな議論をしているというのが今のJTの実態です。
人的資本のオーナーシップを促す6つの注力テーマ
JTグループの人的資本については、この「心の豊かさを、もっと。」というグループパーパスが原点であり、またゴールです。人的資本を単純に可視化・開示していくのではなく、まず人的資本を大事にする理由を明確にしているのです。図2にあるように、「心豊かな社会」を目指すうえで、中枢にはオーナーシップ、つまり一人ひとりの主体性を置いています。このオーナーシップを発揮していくために個人がどんな能力を発揮していくのか。また、どのように企業貢献をしていくのかという観点での行動や、これらをしっかりと支えていける組織風土をどう醸成していくかについても、経営とも議論を重ねながら設定しています。そうしたなかで、人的資本に関連して「DE&Iの推進」「人財の戦略的な確保」「働きやすい環境の整備」「心身の安全・健康の推進」「自律的な成長の支援」、そして「社内外との共創の促進」という6つの注力テーマを置いています。
人事部が推進するこの6つの注力テーマの具体的な内容について、また、具体的に成長支援の内容をご紹介します。