OPINION4 人事パーソンの8割は「人事の仕事を続けたい」 やりがいある人事のキャリアを充実させるために必要なこと 田中 聡氏 立教大学 経営学部 准教授

立教大学の田中聡准教授は2022年、同大の中原淳教授、人事メディア「日本の人事部」とともに、「人事パーソン全国実態調査」を行った。
1500人を超える人事パーソンのアンケート結果も参考に、人事部門で働く人々に必要なスキルやマインドセット、仕事やキャリアに対する意識について、話を聞いた。
[取材・文]=崎原 誠 [写真]=田中 聡氏提供
経営、従業員の双方から人事に対する期待が高まる
「いま、人事に寄せられる経営からの期待、働く従業員からの期待がかつてないほどに高まっています」
企業の人事を取り巻く状況の変化について、立教大学経営学部准教授の田中聡氏はこう話す。
とりわけ大きいのが、経営からの期待だ。背景に、企業の競争優位の源泉が、財務的な価値から人材などの無形資産に移ってきたことがある。投資家が投資判断をするとき、もはや財務諸表だけでは会社の価値を見極められない。人や組織がもたらす創造性が重要であり、だからこそ、「人的資本経営」が注目されている。
人事のもう1つの“お客様”、従業員からの期待も無視できない。
「空前の売り手市場にあって、従業員は、常に今の会社以外の選択肢を持ちながら、『この会社がどれだけ私に投資してくれるか』を見定めています。『あなたは○年目だから』と集合的に管理するのではなく、一人ひとりに合わせた個別配慮(I-deals)が必要です」
人事パーソンに求められるスキルやマインドセットとは
そうしたなか、人事パーソンには、どんなスキルやマインドが必要なのか。田中氏は、まず、「経営と同じ目線で課題を語れること」を挙げる。
「そもそもいま、経営や事業部門の立場から人事に何が求められているのか。もっというと5年後、10年後の会社の未来をどう考えているかを経営者や事業責任者の立場になって描く必要があります」
経営的な視座を持って課題に対処するうえでは、人事の各機能や、他部門との連携が欠かせない。
「特に大企業の人事部門は、採用なら採用、給与なら給与といった個々の役割ごとに機能分化し、それぞれの機能の範囲内で最適化を図ってきました。しかしいまは、DX、DE&I、ウェルビーイング経営といった全社横断的な経営のイシューに対して、人事部門がワンチームとなって取り組む必要があります」
従業員の期待に対しては、「キャリア安全性」の確保を意識したい。
「従業員は、一生この会社で働くことを前提に置いていないので、いまの会社で働くことが未来の自分のより良いキャリアにつながるという実感、つまり『キャリア安全性』を持ってもらうことが必要です。未来のその人のキャリアに紐づけていまの仕事をしてもらうという意識が、人事担当者には求められるでしょう」
また、積極的に従業員の声を聴きに行く姿勢も重要だ。