CASE 3 コクヨ 場数をこなせ! コミュニケーションの基礎 「“1分間”で話し切る技術」
大手文具メーカーのコクヨでは、「1分間プレゼンテーション」と呼ばれるプレゼンテーションのトレーニング法を提唱している。
自分の考えをたった1分で顧客や社内の人々に納得してもらい、背中を押すためには―。
発案の経緯や方法、トレーニングのコツについて話を聞いた。
●背景 長さより場数が大事
文房具や事務用品の製造・販売をはじめ、オフィス空間の設計など、幅広い事業を展開するコクヨ。「1分間プレゼンテーション(以下1分間プレゼン)」という独自の手法を用いた研修を、社内及び法人顧客を対象に行っている。営業職を中心に社内プレゼン研修を始めたのは2008年。現在では新入社員研修にも取り入れている。
そもそも“1分間”にしたのはなぜなのか。コクヨでさまざまな研修を手がけているスキルパーク・シニアトレーナーの下地寛也氏はこう語る。
「実は以前、社内で実施していた研修では、7~8分程度のプレゼンをしていたんです。しかし、時間をかける割には効果が薄いなと感じました」(下地氏、以下同)
下地氏によれば、プレゼン力アップのカギは「場数を踏むこと」と「フィードバックを受けること」。ならば、7~8分間のプレゼンを1回するより、1分間プレゼンを数回行うほうが効率良く効果が得られると考えた。また、1分間プレゼンができるようになると、情報を絞り込む力、内容を構成する力がつき、長時間のプレゼンもうまくなる。1分間プレゼンは、プレゼンにおける重要なエッセンスが凝縮されたトレーニング法なのだ。
ところで、なぜコクヨではプレゼン力強化に乗り出したのか。きっかけは、顧客からの声だった、と下地氏は話す。
冒頭の通り、同社では企業に向けてワークプレイスに向けた提案を行う。その過程でヒアリングをする際、企業から“コミュニケーションの問題”について悩みがよく寄せられていた。例えば、利害関係の異なる部門同士では交渉などの話し合いがうまく進みにくい。その結果「(いくら説明しても)分かってくれない」と、相手のせいにしてしまい、問題解決に至らないケースが見られた。
「利害が対立する以上、相手が“分からず屋”なのは当たり前。聴き手が納得し、同意できるように語れない話し手に、課題があるのではないでしょうか」
克服するには、相手の立場に寄り添って話さなければならない。そこで、プレゼン力が役に立つというわけだ。
社内におけるニーズもあった。多くの日本のメーカーと同様、商品の差別化が難しくなる中、モノ売りからコト売りへのシフト、つまりソリューション提案力が重視されるようになったことだ。
下地氏は、プレゼン力はコミュニケーション力の大切な基礎でもある、と強調する。
●STEP1 伝えることを洗い出す
ここからは、1分間プレゼンの具体的な方法を説明しよう。
トレーニングは、通常、図のような手順で行う。同社の新入社員研修を例にとってみよう。参加者は「私のお気に入り」をテーマに、プレゼンを行う。聞き手が「それほしいかも」「それやってみたいかも」と思えば、プレゼンは成功だ。
取り上げたいお気に入りが決まったら、伝える要素を洗い出す。同社では、小さめの付箋に要素のキーワードを書き、紙に貼る方法を提案する。
「要素を俯瞰しやすいですし、抽出・並べ替えも瞬時に行えます。一方、紙にシナリオを直接書くと、話す順番が変わるたびに書き換えたり、矢印で修正したりと、だんだん汚くなってきて何を言いたいのかが分からなくなるんです」