OPINION 職場の日常に着目 「支援」「勤勉」「創意工夫」が生まれる 職場のつくり方
コミュニケーションが活発に行われ、社員一人ひとりが意欲を持って働く組織はいかにしてつくることができるのか。
そうした関わりあいのある“ 活性化した職場”について、組織経営論、経営管理論、組織行動論に立脚し、ヒアリングやアンケート調査等による実証を交えて研究する、鈴木竜太教授が語る。
活性化への3つの小さな行動
日本では、特に1990 年代後半から成果主義的な人事制度が多く取り入れられるようになったが、それに伴ってさまざまな弊害も指摘されるようになった。個人の成果にフォーカスするあまり、評価につながらない仕事がなおざりになり、他者への支援や協力が軽んじられる傾向が強まったといわれる。目に見える成果を上げた人の声が大きくなる一方、成果が見えにくい仕事をする人の立場が相対的に弱くなり、モチベーションを維持することが困難にもなった。さらに、個人を評価することで個人と組織との関係が強まる一方、人同士のつながりが希薄になり、孤立する人も増えている。こうしたことが積み重なり、組織全体の活力の低下も指摘されるようになってきた。
そうした弊害を乗り越えて組織を活性化し、業績向上に寄与するであろう要素として私は、職場における「支援」「勤勉」「創意工夫」という3つの小さな行動に注目し、研究を重ねてきた。ここでいうそれぞれの意味合いは、以下のようなものだ。
○「支援」:同僚をサポートしたり、後輩を指導したりする行動。
○「勤勉」:職場のルールや秩序を守る行動。
○「創意工夫」:自分なりに仕事を工夫したり、仕事の遂行能力を高めたりする行動。
自分の義務を果たすだけでなく、他の人の仕事にも関心を持ち、手助けやアドバイスをすることで、職場全体の仕事の速さや質が向上する。一人ひとりがルールや秩序を守ることで、働く人同士の軋轢がなくなり、働く意欲が維持される。さらに、創意工夫をして仕事を進めることで、新しい価値が生まれたり、生産性の向上が期待できる、といったことである。
業績向上のための施策というと、画期的な商品を開発したり、イノベーションによりコストを大幅に削減したりといった取り組みが注目されがちだ。確かにこうした取り組みは短期間で大きな成果をもたらすが、人材の能力や環境などに左右される部分が大きい。
これに対し「支援」「勤勉」「創意工夫」の行動は、業績の改善にすぐには直結しないかもしれないが、環境や能力に関係なく誰でも取り組むことができる。また、こうした行動の積み重ねが組織風土を改善し、結果、業績の向上にもつながっていくのだが、そこにフォーカスしたマネジメントが、今の日本企業で意識されているようには見えない。
3つの行動が業績を左右する例
しかし現場レベルでは、これら3つの要素のうち、いくつかを取り入れた組織運営で成果を上げているところは少なくない。
例えば、私が過去に取材したある自動車ディーラーの、業績のいい店舗では、社員が主体的に掃除や整頓をするため、きれいに保たれていた。一方、業績の悪い店は掃除や整頓をしないため、雑然としていた。
さらに業績のいい店では、掃除だけでなく、子ども用のスペースに本を置いたり、誰かが接客を始めると別の社員がお茶を出したりといった細やかな配慮や社員同士の支援が行われている。