CASE1 パナソニックグループ|社員体験にパナソニックのブランドを 人と組織のポテンシャルをUNLOCK現場に寄り添うサーベイ活用とアルムナイ施策 岩井 友氏 パナソニック ホールディングス 戦略人事部 戦略企画課 主幹 他

パナソニックグループでは、社歴5年前後の若手社員の離職を課題視。
オンボーディング施策に活かすべく、継続的なモチベーションサーベイを実施し、課題の抽出と施策の立案に役立てる。
また会社公式のアルムナイコミュニティを設立し、退職後の在り方の再定義に着手。
社員体験価値の向上を通じた組織変革について、担当者に施策の経緯とねらいをたずねた。※同社では、「従業員体験」ではなく「社員体験」の呼称を使用
[取材・文]=たなべやすこ [写真]=パナソニック
UNLOCKなカルチャーのキーパーソンとなる若手人材
パナソニックグループでは、社員体験(EX)に着目した組織カルチャー変革に臨む。
この取り組みの背景には、グローバル規模で約15万人を対象に、毎年行っているエンゲージメントサーベイがあった。全体で見れば肯定的な回答の割合は増えているが、調査を始めて以来、一部の項目についてスコアが横ばいのものも見られるという。それが社員エンゲージメント領域の「会社や上司からの動機づけ(があるという感覚)」と、社員を活かす環境領域の「仕事の阻害要因がない」という2つの設問だ。グループ全体の人事広報を手掛ける、パナソニックホールディングス(PHD)戦略人事部戦略企画課の岩井友氏は、「さらなるエンゲージメント向上を目指すうえで、改善を図りたい課題ともいえます」と説明する。この現状は、DEI(Diversity, Equity & Inclusion)推進の阻害要因にもなり得る。事実、若手の早期離職は同グループも例外ではなく、勤続5年以内、および3年以内の離職率は“キャリア自律”が言われ始めた2016年ごろより、じわじわと上昇傾向にあるという。興味深いのは、サーベイでも入社から年数がたつにつれ意欲の低下を確認できる点だ。
「社員エンゲージメント領域と社員を活かす環境領域の相関分析では、入社1年目は共に高いスコアにプロットされますが、2年目以降、年数を追うにつれ低下が見られます。エンゲージメントの低下が離職意向の動機となっていることは明らかです」(岩井氏)
これらは何も、パナソニックだけに見られるものではない。多くの日本企業が抱えるものではと岩井氏は指摘する。
「私たちが先行事例を示すことで、日本の社会全体の貢献につながると考え、課題に真正面から取り組んでいるしだいです」(岩井氏)
組織カルチャー変革に向けて掲げたのが、“UNLOCK”というキーワードだ(図1)。社員一人ひとりが限界を超え、持てる力を最大限に発揮しながら挑戦し続ける姿を描く。このように定義したのは、グループの経営基本方針のひとつ「自主責任経営」の考えによる。

「当社には本来、『自らを自らの仕事の責任者・経営者と自覚して仕事に取り組み、会社の方針にのっとりつつも、責任をもって自主的な経営を行う』という概念が存在します。創業者の松下幸之助の理念を軸にしながら、社員の行動変容を図っていくことが重要です」(岩井氏)
さらに同社は、以前より社員体験を高める施策をジャーニーマップに落とし込んで包括的に設計を図ってきた(図2)。

「社員体験という意味では、生成AIを活用した入社前のキャリア相談からスタートし、次いで育成、評価・処遇、異動・配置、退職・再雇用と、流れが生まれつつあります」(岩井氏)
今回紹介するオンボーディングの取り組みとアルムナイコミュニティはUNLOCKを推進する重要な取り組みの1つである。
仕事への意欲を定点観測し本人と上司にフィードバック
同社がオンボーディングに力を入れるのは、先に述べた若手のエンゲージメント低下と離職、および中途人材の活躍の課題感からだ。
グループの人事施策を支援するパナソニックオペレーショナルエクセレンス(PEX)リクルート&キャリアクリエイトセンターセンター長の坂本崇氏は、組織や施策の構造による問題だと指摘する。