CASE1 パナソニック|採用から入社後の活躍まで、すべての体験価値向上を マーケティング思考が高める企業ブランドとEX 杉山秀樹氏 パナソニック 採用ブランディング・ピープルアナリティクス課 課長
世界中に拠点をもち、約24万人が働くパナソニック。
2017年に採用マーケティング室を立ち上げ、採用起点で人事にマーケティング思考を取り入れてきた。人事とマーケティングの関係性や、今後の可能性について、
採用ブランディング・ピープルアナリティクス課課長の杉山秀樹氏に話を伺った。
人事とマーケティングの深い関係
パナソニックで採用ブランディング・ピープルアナリティクス課課長を務める杉山秀樹氏は、入社前はベンチャー企業でマーケティングや人事に携わってきた。その経験も踏まえて、人事とマーケティングの関係性についてこう説明する。
「人事とマーケティングは一見関係ないように見えますが、実は非常に重要な接点があります。なぜならば、広義のマーケティングとは、『選んでもらえるしくみをつくること』だからです。一緒に働きたい方に自社を選んでもらい、入社後も活躍してもらうために、マーケティング思考は非常に重要な考え方だと思います」(杉山氏、以下同)
パナソニックがその名も『採用マーケティング室』を立ち上げ、採用起点で人事にマーケティング思考を取り入れるようになったのは2017年。それまで同社では、人事・人材育成領域でマーケティングという言葉を使うことはなかったという。ただ、これからの企業を取り巻く変化をとらえれば、『社員の体験価値(Employee Experience、以下EX)』の向上が重要テーマになり、その手段としてマーケティング思考は不可欠だと考え、あえて言葉にして活動していくことにしたと杉山氏。なかでも、採用起点で取り組みを始めた背景には、当時、大きく2つの課題意識があったという。
「1つは、我々の業界そのものが不人気になっているのではないかという課題です。事業売却などが報じられ、日本の歴史ある大手メーカーに対するイメージが低下している感覚がありました。もう1つは、当社に応募する人材が少しずつ変化しているのではないかという課題です。経営理念や求める人材像と、求職者の方々がもつ当社のイメージの間でギャップが生まれつつあるのを感じていました。これらは感覚値でしかなかったのですが、実際どうなのかを確かめ、もし本当なら手を打とうということで、マーケティング思考でアプローチすることにしたのです」
杉山氏の言うマーケティング思考とは、すなわち顧客起点だ。採用領域の顧客は、求職者に置き換えることができる。
「企業で働いていれば、誰もが就職活動を経験しています。なので、なんとなく就職活動中の相手のことをわかったつもりになりがちです。ですが、採用の意思決定者の多くは40代前後。たとえば新卒採用であれば、20歳差のある彼ら・彼女らの置かれている環境や考え、気持ちを本当に理解できているのか?というところの検証から始めました」
求職者のインサイトを探る
求職者を理解するために、一人ひとりに会うことから活動をスタート。具体的には、1対1のデプスインタビュー、グループインタビュー、アンケート調査の3つを併用して、求職者の『インサイト(相手を理解するための深い理解)』を徹底的に調べたのだ。その際、誰に会うかも考慮したという。
「採用で接点をもつ方は、もともと当社に好意的であり、一定のスクリーニングがかかっています。そうではない一般の大学1年生から3年生、修士課程の学生に話を聞き、彼らがどういうインサイトをもっているかを探りました」
こうして、まだ求職者にはなっていないターゲット層の方々と会うことで、新たな発見があったと杉山氏は振り返る。
「1つは求職者の意思決定タイミングの早さです。当社は就職協定に準じて大学3年生の3月に採用活動を開始していますが、実際には多くの求職者がそれより半年も前の夏休みには、行きたい会社群をほぼ心に決めていることがわかったのです。その状態からひっくり返すのは、かなり厳しいものがあります。
もう1つは、求職者の会社に対するイメージのギャップです。調査の結果、当社に対するイメージのほとんどが『家電』でしたが、実際の家電シェアは4分の1程度なので、大きなギャップがあります。もちろん、求職者は1社1社詳しく調べるわけではないので、ステレオタイプなイメージになるのは当然です。だからこそ、ギャップを埋めて、適切なイメージを想起していただくことが重要だと考えました」
会社都合ではなく求職者思考でメッセージを発信
では、これらのギャップを埋めるために、何をどのように伝えていけばいいのか。試行錯誤するなかで鍵になったのは、やはりマーケティング思考だ。