Vol.11 マーケティング出身CHROが取り組む人的資本経営データドリブンで「創造的商人」を生み出す 山崎 万里子氏 ユナイテッドアローズ 執行役員 CHRO チーフヒューマンリソースオフィサー|佐宗邦威氏 戦略デザインファーム BIOTOPE CEO / Chief Strategic Designer
人的資本経営の重要性が増しているいま、新たな組織の形が求められている。
人事はどのように、価値を生み出す人・組織をつくるべきか。
第11回のゲストはユナイテッドアローズ。
広告、マーケティングを担ってきたCHRO山崎万里子氏が進めるデータドリブンな人的資本経営とは。
佐宗邦威氏とともに、「人的資本経営」を実現する組織と個人の在り方を探る。
[取材]=編集部 [文]=村上 敬 [写真]=中山博敬
経営理念を実現する5つの価値創造
佐宗
山崎さんはもともとマーケターでいらしたのですね。2023年4月にCHROに就任されましたが、マーケターがCHROになるのは興味深いです。
山崎
規程として決まっているわけではないのですが、当社では慣例的に人事畑ではない人が人事責任者になるケースがほとんどです。時代のテーマに沿った経験を持つ人を人事のトップにするのです。たとえばお客様相談室長や、事業責任者を経験した人が人事部長になったこともあります。今回、私が起用されたのは、おそらく広告宣伝やマーケティングの経験が長く、データドリブンの素養があるからでしょう。データを活用してタレントマネジメントを推進しろという意図だと受け止めています。
佐宗
人事部門の経験がなかった山崎さんから見て、人的資本経営はどう映りましたか。
山崎
人的資本経営という言葉が出てきたときに、慌てて伊藤レポートなどを読んで勉強しました。その結果たどりついたのは、「これって近江商人の三方良しで、当たり前のことだよね」ということ。これまでどおり正しい経営や商売をしていれば、恐れるものではないと思いました。
私たちの経営理念は「真心と美意識をこめてお客様の明日を創り、生活文化のスタンダードを創造し続ける。」です。この理念を実現するために、5つの立場の異なるステークホルダー(お客様、従業員、取引先様、社会、株主様)への価値を創造して、その価値を高めていくことを「社会との約束」としています(図)。
5つの価値創造については、どれかを毀損して他を伸ばすということがないようにこだわっています。たとえば利益を出すために原価を叩けば、株主様にとっての価値をつくれても、取引先様の価値にはなりません。同様に、他の価値創造のために従業員の価値を毀損するのもダメ。業績が悪いからといって人件費を削ったり、カスタマーハラスメントのように特定のお客様の満足のために従業員が消耗する事態になってもいけません。私たちは価値創造の観点から、従業員を経営の真ん中に置いてきたのです。
佐宗
日本企業は昔から三方良しで、従業員を大切にする考え方がありました。ただ一方で、2000年代から会社は誰のものかという議論が起きて、株主価値をもっとも重視する風潮も出てきました。5つの価値創造の図を見ると、むしろ株主が一番外に置かれていますね。
山崎
この図は必ずしも円の真ん中が大事で、外ほど優先度が低いという意味ではないのです。もっとも大切なのはお客様価値で、あとの4つはそこからの距離感で配置していますが、距離感に関係なく、4つの価値を等しく高めることがお客様の価値につながるという考えです。
私たちは経営の価値創造に加えて、ブランド価値の観点からも人を重視しています。ブランド価値を形成するのは、従業員の接客などの「人」、商品の「物」、店舗やECサイトのデザインといった「器」の3つのエレメンツであり、そのうちの1つである人は創業以来大事にしてきました。その観点からも、人的資本経営に違和感はありませんでした。