新連載 人事制度改革はなぜ失敗するのか 第1 回 対症療法的人事制度改革の失敗

最近、成果主義への批判をよく見ます。その多くが、成果主義型人事制度を導入したものの、実際の運用において生じているさまざまな問題の事例を取り上げ、「成果主義に問題あり」とするものです。しかし、理想に向けて現実があり、その現実を理想に近づけるべく努力をするなかで、現実に問題があるからといって理想が間違っているとするのはおかしな議論です。目指している方向は間違っていないが、そのアプローチに問題がある、というのがいま生じている問題の本質ではないでしょうか。
本連載においては、成果主義型人事制度に代表されるさまざまな人事制度改革について、「どのようなケースにおいて失敗し」「その本質的な問題はどこにあるのか」「どのようにしたら成功するのか」を事例に基づきながら明らかにしていきたいと思います。今回は、連載の第1 回に当たり、人事制度改革へどのように取り組んでいくべきか、というアプローチに焦点を当てていきます。
1. 事例A社
A 社が人事制度改革を始めたきっかけ
A社は名門大手機械メーカー(社員5,000名)である。業績低迷のなか、このままではまずい、意識改革が必要ということで成果主義型人事制度を導入し、年功序列的でぬるま湯的な組織を改革していきたいと考えた。
人事制度改革の内容
年功序列を廃することにより、危機感を醸成し、さらに若手の活力を引き出すため、成果に基づく処遇を志向した制度を導入。能力評価についても、従来の職能資格に基づくあいまいな評価基準は年功的に運用されてしまうとして、コンピテンシー評価を導入した。
改革の結果
リストラは行われたが、大半の管理職(ライン長)についての位置づけは変わらず、特に入れ替えが行われたわけではない。そのため、評価する管理職にとっての新制度は、システマチックで多少洗練されたイメージはあるものの、基本的にはこれまでと変わらないという認識であり、運用面はこれまでと同じになってしまった。
若手は、この変わらない現実に嫌気がさし、優秀な人材から退社してしまった。
成果を測る仕組みにおいても、コンサルタント作成による細かいマニュアルが整備され、上司と部下の話し合いに基づく目標管理を中心として運用されたが、運用は形骸化しており、社員の納得感は得られていない。そのため、人事部の再三の説明にもかかわらず、新人事制度は賃下げの手段として社内では捉えられている。
経営目標との連鎖なども模索され、形式的にさまざまな施策は回るものの、「実際にそれで業績が上がったわけではなく、手間ばかり増えた」という現場からの不満が強い。最近では人事制度に対する不満は無視できないレベルになっており、トップからはとうとう見直しの指示が出た。
2. なぜ改革は失敗したのか
A社の置かれていた状況
A社は企業のライフサイクルでいえば、成熟期の段階にあります。そういった企業においては、普段は意識されていないものの、長い時間をかけてつくられた強固な価値観ができ上がっているものです。そして、それに基づいた社内の秩序ができ上がっています。社員の序列などはその典型です。「ぬるま湯的」「年功序列的」と表現されていますが、かつてはそれなりの人材を選抜する仕組みがあったはずです。
ただ、経営環境の変化が激しくなり、業績が低迷している現状では、高いコストに見合った価値を発揮していない人材が多く、もはや「ぬるま湯」といわざるを得ない状況になってきているのです。