人材教育最前線 プロフェッショナル編 現業経験が活きるグループが一体になるための教育
西武鉄道やプリンスホテルを中核に54社の事業会社を統括する西武ホールディングス。そのホールディングス社員の教育およびグループ共通の教育を担うのが、人事部グループ人材開発室プロジェクトリーダーの村田由香里氏だ。車掌や運転士として、現場の想いや高いプロ意識、そしてそれらが西武グループを支えていることを身をもって学んだ村田氏。そんな現業での知識と経験を活かし、「グループ全体を俯瞰できる経営人材の育成」をめざして日々奮闘している。
現業での学びと尊敬
村田由香里氏が2008年、西武鉄道に入社したきっかけは、「生活に密着した仕事がしたい」という希望からだった。路線を持ち、沿線に街が広がる鉄道会社であれば、地域密着という点や発展性という観点からも、「何か新しいことができるのではないか」と可能性を感じたからだ。また当時、女性の登用が少ない状況だったこともあり、女性目線や感性を活かした仕事ができるのではという期待もあった。
鉄道会社では総合職であっても入社後、駅係員や運転士などの現業を経験するのが一般的だ。通常、期間は数カ月だが、西武鉄道の場合は最低約2年、長ければ約3年にもなる。村田氏も入社後、駅係員として高田馬場駅に配属された。
「総合職として当初は沿線開発の仕事に興味がありましたが、現業を経験する重要性も理解していました。お客さま目線になるためには、やはり実際にお客さまと接することが必要不可欠だからです。高田馬場駅はJRや東京メトロに接続しており、乗降客数も多い駅です。迷子や急病、トラブルなども毎日のように起こり、常に臨機応変な対応を求められる中で学んだことも多くありました」
翌2009年の1月になると、今度は車掌になるための訓練が始まった。同僚や上司がいつも周囲にいる駅での勤務とは異なり、車掌は単独職である。的確な判断と責任を持って業務を遂行する能力が求められる。
「現場では、何かを判断する前に周囲への確認が大事だと言われています。私自身、少しでもわからないことや判断に迷った場合は周囲のメンバーにすぐに訊いていました。ですが、乗務員の仕事は、1編成に運転士と車掌のみが乗務し、人の命や財産を乗せて走るのです。車掌としての迅速な判断力や対応力が求められます。そこでまず、訓練で独り立ちする前にあらゆる確認事項をクリアにしておこう、また自分自身の甘えた姿勢をなくし、プロとして業務を全うしようと思いました」
訓練は落雷や地震、事故などさまざまなシミュレーションを想定して行う。だが、それ以外に起こりうるトラブルや非常事態を想像し、一つひとつ解決策を何度も練った。不安要素を書き出しては、わからないことを養成所の教師や指導員に尋ね、ノートにまとめた。3カ月の訓練を終え、車掌になってからもいつ何が起こっても対応できるように、休憩時間によく読み返していたという。
「朝のラッシュ時であれば1編成にご乗車いただいているお客さまは3000名にもなります。正直、毎日無事に乗務を終えるために、緊張感を持ち続ける仕事でした。お客さまと接する最前線にいる社員はこの緊張感と責任感を持って何十年と勤務していることを知り、心から尊敬しました」