組織づくり│アルムナイ・コミュニティ 緩くつながることでアルムナイとの関係性は強くなる 田中悠太氏 日揮ホールディングス サステナビリティ協創ユニット 他
自社の退職者や卒業生を指す「アルムナイ」。
構造的に人手が足りなくなる時代を迎えて、以前から人材プールとしてのアルムナイに注目が集まっていたが、近年は「アルムナイ・コミュニティ」として組織化する動きが加速しており、採用以外にも様々な可能性を秘めていると聞く。
実際に150人を超えるアルムナイ・コミュニティを擁する日揮ホールディングスの有志運営チームに狙いを聞いた。
[取材・文]=村上 敬 [写真]=日揮ホールディングス提供
ボトムアップで始まったアルムナイ・コミュニティ
日揮グループは、エネルギー分野をはじめ各種プラント・施設のEPC(設計・調達・建設)事業を中心に事業展開している。売り上げの7割は海外で、これまで手掛けたプロジェクトは80カ国・2万件以上に及ぶ。従業員数は7,876名(2023年3月31日現在)。事業の性質上、海外赴任の機会は多く、グローバルで活躍できる人材を数多く擁している。
同社でアルムナイ・コミュニティをつくる動きが始まったのは2019年。会社の人事戦略ありきでスタートしたわけではなく、起点はボトムアップだった。発案者の1人である日揮ホールディングスサステナビリティ協創ユニットの田中悠太氏は、若手・中堅でつくる社内有志コミュニティ「JGC3.0」(JGCは日揮の英語名)の運営メンバー。JGC3.0は、大企業の有志団体をつないで変革を促すコミュニティ「ONE JAPAN」に加盟しており、田中氏は他の企業の若手と話す機会が多かった。アルムナイ・コミュニティのアイデアも、他社の取り組み例を聞いたことがきっかけで生まれたという。
「トヨタや東芝でアルムナイ・コミュニティにトライしているという話を聞いて刺激を受けました。実は日揮にはもともとアルムナイに対してオープンなカルチャーがあります。数年の海外駐在に出て、久しぶりに横浜本社に戻って勤務する、といった働き方をしている人が周りにいる職場環境であり、会社としてウェルカムバック制度(配偶者の転勤や駐在で1年以上の帯同をすることを理由に退職する場合、3年以内であれば復帰できる制度)を用意していたり、なかには海外の別会社に転職して10年ほど働いた後、戻ってきて部長を務めた人もいました。こうした土壌があるのにアルムナイ・コミュニティがないのはもったいないと考え、当時の人事部長(現CHROの花田琢也氏)に相談。『自分も興味がある。ボトムアップからやってみたらどうか』と後押しを受け、有志で活動を始めることにしました」(田中氏)
興味深いのは、田中氏が普段は新規事業開発に従事しており、人事担当ではなかった点だろう。ボトムアップで始まるとしても、人事領域以外からの発案は珍しい。田中氏の問題意識はどこにあったのか。
「具体的な人事施策の観点から始まったわけではないんです。我が社の離職率は当時2~3%とそこまで高いわけではなく、周りに『もったいない転職が起きているな』といった課題感はあったものの、退職者が相次いで困っているような状況ではありませんでした。もっと気軽に、これだけ魅力的な人財がいるのだから転職後もつながりを大事にしたいとか、何か面白いことが起こせそうだという好奇心レベルでのスタートでした」(田中氏)
面白そうというレベルで人事部長に掛け合うのは勇気がいるように思えるが、他部門の社員が人事領域に踏み込むことに躊躇はなかったのか。
「個人的には、立ち上げ前年に日揮協議会(労働組合に代わる労使懇談のための組織)の代表を務めたことが大きかったですね。コーポレート部門や関係役員との協議など協議会活動をするなかで、一従業員だけでなく会社全体を見る視点が身につきました。他の立ち上げメンバーも、普段は経営企画で中期経営計画を策定するなど、会社を俯瞰的に捉えている仲間が多かった。人事施策という意識よりも、会社をさらに良くするための提案をしただけで、特に違和感はなかったです。花田は有志活動を以前から応援してくれていたので、このときも自然に相談しました」(田中氏)
アルムナイの心理的安全性を重視
有志メンバーによるカジュアルな提案が起点となっただけに、アルムナイ・コミュニティの活動はスモールスタートだった。最初に取り組んだのは、「ホームカミングデイ」。会社の創立記念日である10月25日に、本社が入った横浜みなとみらいのオフィスビルのカフェテリアを借り切って、アルムナイとの第1回目となる交流会を開き、約20人強のアルムナイが参加した。大企業のアルムナイイベントにしては少なく感じるかもしれないが、これには理由がある。退職者に全方位的に案内するのではなく、運営メンバー4人の知り合いを中心に声をかけたからだ。田中氏は狙いを次のように明かす。