戦略人事成功に資する、People Analyticsの価値 升田 真奈美氏 NTT データ 法人コンサルティング&マーケティング事業本部 法人コンサルティング&マーケティング事業部 データ&インテリジェンス統括部 課長
近年、経営状況がいっそう複雑化するなかで、人の価値を最大限に引き出す人的資本経営が注目されている。
人の能力を最大化するためには、データによるアプローチが不可欠である。
そこで、People Analyticsの必要性とその価値について、NTTデータでPeople Analyticsを推進する升田真奈美氏に寄稿いただいた。
[写真]= NTT データ提供
今までの人事業務:KKDを駆使した意思決定
日本における人事業務は、長い間KKD(勘、経験、度胸)を中心に行われてきました。
たとえば採用プロセスでは、リクルーターや採用担当者が履歴書や面接での印象、面談時のコミュニケーションから、候補者の適性を判断しました。面接中の人間関係構築と洞察に基づいて採用の最終判断が下されるなど、KKDを活用して候補者と組織の適合性を評価し、採用が行われてきました。
また昇進プロセスや評価・報酬プロセスに関しても、KKDが大きな役割を果たしていました。上司やマネジャーは、従業員の仕事ぶりやチーム内での協力的な姿勢などを見て評価を行い、ボーナスや昇給の幅を決定、昇進の可否を判断するといった評価と判断が行われてきました。
このようなKKDによる人事業務や意思決定は決して悪いものではなく、今までの終身雇用を前提とした社会環境や長期一貫した戦略に基づくビジネス環境において、人間関係・個人間のつながりによる信頼関係は長らく価値があるものでした。
また、過去のビジネス環境は比較的安定しており、変化も緩やかでした。このような不確実性が低い状況下では過去の実績が重要な意味を持ち、KKDを駆使して意思決定することが効果的でした。
さらに、当時は情報技術も不足しておりデータ収集と分析が現在ほど容易ではなかったという背景もあります。データの蓄積と分析が困難だった時代において、KKDは情報の不足を補う役割を果たしていたのです。
環境変化とKKDの限界
長年KKDが重視されていた一方、近年は急速な変化が生じており、このような意思決定のしかたは限界を迎えています。特に人事業務に関わる変化としては以下の3項目が挙げられます。
変化① 不確実性の増加
新型コロナウイルス拡大に伴う環境の急変に代表されるように、世界的な出来事や市場の不確実性が増加しています。これに伴い、市場変動に直面する組織においては、今まで以上に柔軟な戦略の変更が求められるようになりました。また個人においては、日本型雇用慣行の変化や働き方の多様化に伴い、個人のスキルや成長に焦点を当てたキャリア自律が重視されるようになりました。
変化② データ利活用技術の発展
近年、データ収集、処理、分析技術は大きく進化しました。たとえば、クラウドコンピューティングの普及により、大規模なデータセットを効率的に収集・保存できるようになり、機械学習アルゴリズムやディープラーニングの発展・民主化により、複雑なデータのパターンをより正確に抽出・分析することが容易になりました。これにより、ビッグデータの有効活用が進み、予測分析の精度も向上しています。
変化③ 人的資本開示の義務化