KEYWORD 2 人事とビッグデータ
今、話題の「ビッグデータ」は、人事の世界にも新しいデータ活用の可能性をもたらすのでは、と期待が高まっている。
人事・人材教育分野におけるデータ活用はどう変わるのか。
慶應義塾大学ビジネス・スクールにて「人事・教育分野でのビッグデータ分析」研究を行う岩本隆氏に聞いた。
人事分野のビッグデータとは
「ビッグデータ」と聞くと、ショッピングサイトの購入履歴やエントリー履歴、GPSの位置情報などの大量データを想起する人が多いかもしれない。だが、その活用範囲は、一見無縁に思われる人事分野にも及んでいる。
というのも、「ビッグデータ分析」は、データベース同士の関連づけや、テキストデータなどの非構造化データの分析などを可能にした。そのため、給与、勤怠管理、研修受講履歴などデータベースが分かれて存在し、従業員への聞き取り結果などテキストデータが多い人事関連データの分析にも活用が期待できるからだ。
米国では、10年ほど前から人事分野においてICTを活用する動きが起きている。注目すべきはこの数年で急拡大しているタレントマネジメントツールの登場だ。タレントマネジメントツールとは、給与、勤怠、配属、職歴、評価、スキル、コンピテンシー、教育履歴などさまざまな人事データをワンストップで管理し、効果的な人材活用につなげるシステムを指す。「サクセスファクターズ」や「タレオ」などのタレントマネジメントツールを開発したベンチャー各社は、次々と大手企業に買収され、急激に事業展開を進めている。
日本でも2013 年あたりからこれらのタレントマネジメントツールの提供が始まったが、日本と欧米の人事上の慣習や評価指標の違いなどもあり、まだ広く普及する段階には至っていないようだ。しかし現在、いくつかの日本企業もタレントマネジメントツールの開発に着手しており、今後は人事とICTとを融合したビジネスの動きが進むと見ている。
経営視点で人事データを分析
さて、「ビッグデータ分析」を、今まであまり活用されてこなかった人事・教育データに応用することで、どのようなことができるのだろうか。
端的に言えば、経営から見た人事のさまざまな課題を統計学的に整理できるようになる、ということになろう。
これまで、人材マネジメント分野では、定性的な検証が中心で、定量的なデータ分析が用いられることはあまり多くなかった。そこに定量的な「ビッグデータ分析」を活用することで、統計学的に検証されたマネジメントのあり方を提示することができるというわけだ。
例えば、何となく「離職率が高いのは給与が低いせいだ」と考えられていたものが、離職に関する調査について統計学的なデータ分析を行うことで、「実は給与よりも成長実感や人間関係のほうが離職との相関が高かった」といったことが判明したりすれば、マネジメントにおける新たな視座を提供することができる。
慶應義塾大学ビジネス・スクールには統計学研究室があり、経営の視点から統計解析ができる環境が整っていることから、2013年より「人事・教育分野でのビッグデータ分析」による研究を開始。以来、毎日のようにさまざまな企業から委託研究やデータ分析の依頼が持ち込まれている。